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【メイン#3】異世界行ってみてぇ~!企業「創りました!」

水無月みと

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桜明学園水戸校

Gーsideで機械巨兵に追い掛け回され、挙句の果てに文字通り叩き潰されるというトラウマ体験から約2週間が過ぎた。

今週から2週間、学校への登校週間が続く。

俺たちが通う”私立桜明学園”は、2週間の登校期間と2週間のオンライン学習期間を交互に繰り返す。で、今日はその登校期間初日。

「おはよー」

「おー、おはよう大輔」

先に来ていた誠太に声を掛け、いつもの席に座る。といっても自由席だから皆なんとなく気に入った席に座ってるだけなんだが。

そういえばこいつに会うのは例の機械巨兵との鬼ごっこの日以来だ。

「なあ、もう筋肉痛治った?」

「当たり前だろ。あれ先々週の話だぞ?流石に次の日は布団から起き上がるだけでもしんどかったけど・・・。つーか、そもそもお前があいつに攻撃仕掛けたのが原因じゃねえか」

「いや悪かったって!他の雑魚敵に飽きてたし、いけると思っちゃったんだよ」

誠太、つまりカラスがやらかしたせいで始まった例のデスマーチ。ディキさんとケンシさんが仇を討ってくれたものの、2人が帰った後でパーティーメンバーからこってりと絞られていた。

「アンタ絶対今の”飽きてた”部分が本音でしょ」

話しかけられて振り返ると、そこには茜が。彼女がイオリだ。

茜も近くの席に座ると、教室後方の窓際に視線を向けた。

そこには固まって何やら話している一団が。いつもやかましい斉藤がいるから目立つ。あ、江崎にどつかれた。

「あの人たち初めて見るけど、どこの子?」

茜が斉藤たちが固まっている集団を指して言う。あいつらは普段パーティー組んでるメンバーだ。だけど確かに初めて見る奴が2人混じってるな。まあ、別に不思議でもないけど。

「いわき校の原田君と曽根君だってさ。Gーsideでパーティー組んでるらしくて、遠征がてら2人でこっち来てるんだってよ」

「へー、いわきって福島か。県外から2人で来たんだ」

きっちり情報を仕入れていたらしい誠太が教えてくれた。

俺たちの通う桜明学園は、全国に同名の分校が存在する。そして”同じ桜明学園であれば登校先は自由”なのだ。

一応籍を置いている学校は決まっているのだが、籍のある学校とは違う桜明学園へ登校してもいい。出欠はオンラインで管理されているから、サボっていないことは証明できる。

つまりあの2人は、本来自分たちが籍を置いている”いわき校”ではなく、ここ”水戸校”へ登校してきたというわけだ。

このシステム、親が転勤族だったり遠地に親戚がいるとかの事情がある生徒にもなかなか好評だったりする。

なにせいちいち転校手続きをする必要がない。ついでに違う学校へ登校するつもりがない生徒からしても、知らない奴が教室に居ても珍しくないからすんなり受け入れられる。

「まぁじで!?ここまで徒歩で来たん?ガチ冒険者じゃん!!」

斉藤の大声が聞こえてきた。ていうか今凄い事聞こえたぞ。

内容が内容だっただけに、教室にいた他の連中も聞き耳を立て始める。あからさまに注目集めてるな。当のいわき校の2人は全く気にしていないようだ。

「うん。どうせ登校週間はどっかにある桜明に顔出せばいいんだし、Gーsideの中だったらシェルで宿代払えるし」

「そうそう。しばらく2人で全国行脚しようって決めてさ。Gーsideの中であっちこっちの町とか野営地とかをうろうろしながらここまで来たんだよ。ぶっちゃけいわき校行ったのは一番最初の登校週間だけなんだよね。いつ戻るかも決めてないよ」

「スゲーね。でも地元戻んなくて寂しくねえの?」

今聞いたのはG-sideで斉藤とパーティーを組んでいる小池だ。

「いや、今んとこ別に。戻りたくなったらGーsideでポータル使えば一瞬だし。全然寂しくないよ」

あっけらかんと言う原田君。まあ確かに、Vアバなら北海道から沖縄までだって一瞬で移動できるもんな。この前のケンシさんみたいに。

「でさ、全国行脚しながら配信もやってるんだ。”かけだし冒険者の成り上がり道中”ってチャンネルなんだけど、よかったらチャンネル登録してよ」

「おお、するする!!普通に面白そうじゃん!」

注目されている状況を利用して宣伝をぶっこんできた。抜け目ないな。

原田君と曽根君を囲んでいる斉藤をはじめとした4人はその場でチャンネル登録したようだ。・・・俺もしよ。

『アレン、”かけだし冒険者の成り上がり道中”っていう配信チャンネル探して』

<うん、あったよ>

流石アレンは仕事が早い。まあ、アシスタントAIはどれを選ぼうと同じように仕事してくれるんだけど。

『じゃあチャンネル登録しといて、後で落ち着いてから見るから』

<わかった>

もうすぐ笹てぃも来るだろうし、見るのは後にしておこう。

「お!今だけで登録者30人以上増えてる!ありがと皆!」

しれっと確認したらしい曽根君が、教室全体に向けて礼を言った。

30人以上ってことは、今教室にいる奴ほぼ全員登録してるな。

そして茜は虚空を見つめて動かない。恐らく今スマートコンタクトを通じで動画視聴中だろう。視界にARで画面が浮かび、ディスプレイなんかなくても動画が見られるのだ。

曽根君の呼びかけに応じて何人かが手を上げ、「頑張れー」と声を掛けている。俺も軽く手を振っておいた。

「おはよー・・・。何この空気?なんとなく入り辛いんですけど?」

そこに幸がやってきた。彼女がアリスだ。これでいつものパーティーメンバーが全員揃ったな。

「うっす、おはよー。いや実はいわき校から来てる人たちがいてさ・・・」

来たばかりで状況を把握しきれていない幸に大まかに説明。

「へー。徒歩とは見上げた根性・・・。後で見よっと」

幸もパパっと登録を済ませたところで、笹てぃが教室に入ってきた。

登校する目的

「おーす、おはよう。今日は井瀬とかいないな。・・・あー、渋谷校行ってんのか。よし、じゃあいる奴らで始めるぞー」

Gーsideで会った金髪イケメン”ディッキア”の面影は全くなく、ぼさぼさ頭に眼鏡着用で登場した笹倉先生。なかなかのギャップだ。

で、始めるとは何をするのか。そもそもだが、俺たちは普段オンラインで授業を受けるか、アーカイブの視聴で学習している。つまりわざわざ授業を受けるために教室に集まるメリットはない。

というか、前提として無理なのだ。この教室に集まっている奴全員、学習進度が違う。

生徒は自分の理解度に合わせて授業を選択している。

個人の理解度によって学年指定の中から自分に合ったもの・自分にとって解りやすく教えてくれる先生の授業を自分で選んでいるのだ。

”必ずここまでは受けること”と決められた範囲はあるが、それ以上の範囲を勝手に勉強してる奴もいる。

これの何がありがたいって、受ける授業の全てが”上手い講師の授業”になることだ。

物理的に教室に集まって授業を受けるとなると、1人の講師がどうにか出来る範囲なんて限界がある。そもそも自分が通っている学校に”授業が分かりやすい講師”が居なかった場合、受けられる教育の質に差が出てしまう。

だけどオンライン授業に参加するならそんなの関係ない。1人の講師が1万人教える事だって出来る。

例え山奥の限界集落にいたって、都市にある超エリート校と同じ質の授業を受けられるのだ。

つまり、登校週間とは授業の為にあるわけではない。当然2週間もあるからその間全くやらないわけではないけど、主目的は別にあるという事だ。

「んじゃ、まずは各自近くにいる奴と。今日は初日だから長めに時間とるぞ。他校から来てる奴も何人かいるみたいだしな。しっかり有意義に過ごせ。俺と山本先生・佐野先生がいるから、なんか意見が欲しい時は言え」

今からやることは、生徒同士のディスカッションである。オンラインとオフラインの違いは当然だが直接会うこと。ならば”人脈の形成と情報交換”はこっちの方が捗る。

学校に来ないオンライン期間に何をしていたのか・何を得たのかを話し合う。

基本的に皆自分のやりたいことに時間を使いまくっているから、話題には事欠かない。

他校生なんかいた日にはかなり盛り上がる。なにせお互い持ってない情報を持ってる。地元の話題なんかはもちろんだが、話題は特に指定されていないのでとにかく何でも話す。

そして今この教室には、笹てぃを含めて3人の教師陣が居る。

彼らの仕事は、俺らのディスカッションに社会人的視点から意見する事。こっちから求める場合もあるし、何か話題を提供してくれることもある。

基本的に教師陣はほぼ”兼業”だ。笹てぃは配信とかゲームでの賞金稼ぎが収入の大半だって言うし、山本先生は体育の授業も担当してるけど、本業はスポーツジムのインストラクター。佐野先生は農家さんだ。

先輩が言ってたけど、佐野先生って季節ごとに野菜とか果物とか持ってきてくれるんだってさ
去年はそれ使って家庭科室で炊き込みご飯したって・・・

ディスカッション開始

「なあ、せっかくだからいわき校の2人んとこ行こうぜ」

誠太の誘いを受けて、さっきから教室後方で固まっていた斉藤達4人+いわき校の2人のところへ合流する。俺たちも含めて10人というなかなかの人数になってしまった。

他のクラスメイト達も、各々適当にグループになって話し始めている。ちなみに他校から来ている生徒は他にもいるが、彼らは以前にも来ているので知った顔だ。

「お?誠太たちも興味津々?」

「そりゃさっきの話聞こえちゃったら気になるっしょ!俺和木ね。あと他のはパーティーメンバー」

雑過ぎる紹介。これじゃ結局誰だかわかんねーだろ。

「俺は松永大輔。こっちの2人は千代川茜と三ツ井幸。よろしく」

「おぉよろしく!聞こえてたっぽいけど一応言っとくと、俺は曽根俊也でこっちが原田悠馬。徒歩で来た!」

活発で人懐こそうな笑顔で自己紹介してくれる曽根君。原田君も似た性格なのか、いきなり来た俺たちに笑顔で話しかけてくれた。

「よろしく。ところでさ、俺たち水戸に来たのって一応目的あるんだけど、みんなの中に”千歳”メンバーと知り合いな人っていたりする?そう簡単にはいかないと思ってるけど有名人だしさ、せっかくだから会ってみたいんだよね」

「そうそう。地元の仲間とも結構話題になること多かったし、水戸行くって言ったら土産話期待されちゃってさぁ。知り合いの知り合いとかでもいいから繋がり持てないかなって」

それを聞いて水戸勢の俺たちは固まった。”千歳”メンバー、居る。この教室に居る。しかも大幹部級の大物が居る。

「え?何、この反応・・・」

「もしかして何かまずかった?表に出てないトラブルでも起きてるとか・・・」

俺たちの反応に困惑する2人。そりゃそうだ。でも違う意味でガッカリさせるかもしれない。

「ああ、いや違うのよ。確かに有名だし会いたがるのも普通だよね。けど、今まで他校から来た人で会いたいって言ってきた人が他にいなかったから・・・」

なんかごにょごにょ言い出した、斉藤のパーティーメンバー江崎真菜。だけどその反応は誤解を与えるのでは。

「え!?ごめん・・・。流石に初対面で図々しかったか・・・」

ほら見ろ、曽根君しょんぼりしちゃっただろ。

「ううん、違うの。真菜はちょっとびっくりしただけでそんな事思ってないよ。考えてみれば会いたい人いるの当然だなって。そこに考えがいってなかった事に自分でびっくりしたんだよ」

同じく斉藤パーティーの宇賀神結ことうがちゃんのフォロー。他3人はやかましいが、そんなパーティーでは異色のおっとりした癒し系だ。

「ただなー、期待してるとこ悪いんだけどー、もしかしたらガッカリさせちゃうかもなー」

小池靖一ことこやす、ウザめに溜めて教室前方に視線を向ける。つられて俺も見ると、そこにはわざとらしく目を逸らす笹てぃが。絶対話聞こえてるな。

「どういう事?」

こいつら何か知ってるっぽいというところまでは察したらしい原田君だが、当然意味はわからないらしく困惑しまくっている。これ以上知り合って間もない相手をおちょくるのはマイナスイメージにしかならないな。

「笹てぃー、ヘルプ!」

生徒からヘルプを求められたら助けるのが教師の仕事。話振られたくなさそうだったけど知らん。俺たちの人脈を潤わす糧になってください。

・・・そんな嫌そうな顔しなくても。

「・・・なんだ」

「いや絶対話聞こえてましたよね?千歳メンバーに会いたいんですって、ディッキアさん」

「え!?」

「は!?」

もの凄くびっくりしているいわき校の2人。対して水戸校の方は、「びっくりするよねー」という反応と「あーあ、もうばらしちゃった」という反応に分かれている。きれいに女子と男子で反応が分かれたな。

「え?ディッキアってあの、Aチームのリーダーでギルドサブマスターのディッキアさんですか!?」

「えぇ嘘・・・」

騒ぎ出す曽根君と呆然とする原田君。原田君は笹てぃの顔を凝視したあと、俺たちの顔をぐるっと見回した。

曽根君は半分パニックでそれどころじゃなさそうだけど、原田君はちょっと冷静っぽい。

多分今の視線の意味は、”他のプレイヤーの正体勝手にばらすのって、最大級にマナー違反では?”だと思う。

けどそれについては心配無用だ。ちゃんと許可取ってあるから。

「先生、生徒には無条件で正体明かすって言ってんのに、何でそんなに嫌そうな顔するんですか」

「出辛いだろうが。何が悲しくて期待に胸躍らす高校生の前に棚ぼたで登場しなくちゃいけねえんだ。せめてもうちょっと場を整えろ」

斉藤とこやすの目が光った。先生、こいつらの前でそれは失言です。

「さあさあご注目ください!こちらにおわすは全国に名を轟かす、上級攻略ギルドの一角”千歳”創立メンバーにしてサブマスター!」

「ギルドの中でも五指に入ると言われる実力者にして、戦闘最重視のAチームでリーダーを張る男!その名も・・・」

「わかった!!俺が悪かったから止めろ!!!」

一切の打ち合わせもなく茶番を披露してみせる2人もある意味で凄いといえよう。それに圧倒されたんだか何だか知らないが、流石の笹てぃも慌てふためいている。あと呆れ果てた江崎の目が怖い。

その後いわき校の2人が笹てぃを質問攻めにしようとしていたが、それは今のディスカッションの趣旨に反するって事でストップがかかった。

とりあえずその場では俺たちも含めてG-sideでのフレンド登録をするに止め、後日”ディッキア”として会うらしい。いわき校の2人から、その時は俺たちも一緒に来てほしいと言われた。

落ち着いたところで通常路線に戻り、話の中心はいわき校の2人がここまでどんな道のりを辿ってきたかという部分に終始した。

どこに行ったかというのも面白かったが、道中G-side内で宿泊していた施設の話が面白かった。これは女子たちにも反応が良く、今度俺たちと斉藤パーティー、原田・曽根パーティー合同でG-side探索をしようと話がまとまった。

いわき校の2人はいつこの地域を離れるかは決めていないそうだが、少なくとも今回の登校期間は水戸を拠点にするんだと。その先は気分次第って、めちゃくちゃ羨ましいことを言っていた。

・・・俺もその内やろうかな。

次話へ

水無月みと

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