ダンジョン突入(後編)
これはゲームだ。そして俺たちがプレイヤーである以上、チームの為に個人が楽しむことを犠牲にするなんてのはナンセンスだ。
”作戦行動は3陣参戦直後まで”。これが事前に決まっていたこの戦いの指針。
そして3陣の出撃が完了し、既に1対1の近接戦が開始されている以上、ここから先は作戦もへったくれもない個人戦だ。
「オオオオォォ・・・・・」
俺の進路の真正面に湧いて出たスケルトンジェネラル。全身を鎧で武装したガイコツだ。
「ちょっと遊んでいくか」
スケルトンに銃じゃ相性が悪い。
敵の目前で前輪を持ち上げ、そのままウィリーで相手に突っ込む。
要は轢いたわけだが、相手はそもそも殺してなんぼのゲームモンスターだ。追い打ちとばかりに顔面目掛けて前輪を着地させ、そのまま前進して後輪でもう一撃。我ながらエグイ。
『オスカー、バイク頼む。ハルの所に移動させといてくれ』
<こんなデケェもん押し付けられんじゃ迷惑だろうな>
『そんな長くはかからねえよ』
バイクを降りてオスカーに指示し、愛車を移動させる。アシスタントAIに頼んでおけば、自動運転で希望した場所まで勝手に向かってくれるのだ。おかげでダンジョン攻略でも遠慮なくバイクで乗り込める。
スケルトンジェネラルも起き上がって構えている。さっきのは不意打ち。ここからが本番だ。
思ったほど削れねえな。やっぱ鎧着てるだけあって防御は高いらしい。
スケルトン種は打撃に弱い。だからこそバイクで体当たりなんて無茶をやってみたんだがイマイチだったな。本気で優位を狙うなら、それこそハンマーとかの打撃武器が有効だが、生憎そういうのは得意じゃない。
どう攻略したもんかと考えている間に、敵は左腕に装備した盾を正面に構えて突っ込んできた。
「シールドバッシュか!」
流石Aランクだけあって速度もかなりのもんだ。まあ、千歳基準じゃ大したことねえけど。
前傾姿勢から走り出す体勢をとる。足を踏みしめ、地を蹴ると同時にジェットシューズを噴かし一気に加速する。
通常は空中で使用するジェットシューズ。こいつを使いこなせれば、アニメ黎明期のロボット少年の如く空中を自在に飛び回れる。しかし地上で運用すると、踏ん張りが効く分空中では出せない速度で走ることが可能なのだ。
突っ込んでくる相手の左腕外側に向かって走りこむ。この位置なら右腕のロングソードによるカウンターを受ける可能性は低いし、盾で防がれようと完全に威力を殺すのは無理だろう。まずは小手調べだ。
愛用の銃で2~3発。貫通力の高い通常の弾では効果が薄いので、着弾と同時に爆発する特殊弾だ。
無防備な左脇腹に食らって体勢を崩しているが、多少よろけた程度ですぐに持ち直す。ダメージ量はまあ、根性があればこのまま続けて倒せる程度には出てる。が、それはぶっちゃけ面倒くさい。そこまでダラダラ戦う気もない。
自己強化の形
「やっぱダメだわ」
銃の装備を解除し、籠手に切り替える。
Gーsideは基本ホログラムだ。装備も例外じゃない。しかし、剣や銃を握ってるのに手応えが無いってのは、リアル体験が売りのGーsideでは残念過ぎる。
そこで、握る部分だけは本当に物体として用意されている。
剣なら柄だけ、銃ならグリップだけ。そこにホログラムを被せることで、ゲーム的な見た目と、システム的なカスタマイズ性と、現実的な感触をいっぺんに成立させているのだ。
ホログラムを解除してグリップだけになった銃をポーチに突っ込み、同時にそれとは反対の腕で体勢を整えつつあるスケルトンジェネラルに拳骨をかます。
この程度ではダウンは取れず、上段からロングソードが振り下ろされる。
それをステップで躱し、左足のジェットでジャンプ。右足で膝蹴りを当て、跳び上がった空中で体を捻り、回転蹴りを一発。
着地点でシールドアタックが来たが、無視。迫る盾を拳で思いっきり殴りつける。
Gーsideで強くなろうと思ったら、絶対に避けては通れない事がある。”自己理解”だ。
例えば、プロスポーツ選手のように体を動かしたいと思っても一般人には無理だ。科学者のような頭脳が欲しいからと言って、勉強すれば万人がその領域に至れるわけではない。
しかし、ゲームというのはそういった”凡人の限界”を破壊する。
ゲームの世界でなら、縦横無尽に駆け回れる運動音痴も、法廷で弁護士を言い負かす幼児も成立する。コミュ障が10人以上の異性を口説き落とす事だって当たり前のように出来る。
だが、それが成立しないゲームがGーsideなのだ。なぜなら、このゲームのアバターは、比喩でもなんでもなく自分自身なのだから。
如何にシステムのアシストがあっても、運動センスのない奴が近接戦闘で一定以上の実力をつけるのは難しい。
システムに則った選択肢なんてもんが存在しない以上、知識を必要とされたなら持っていなければ正解は導き出せない。
強化に心的要素が絡む以上、呪文を唱えられるだけじゃバッファーにはなれない。
自分は何が得意で、何が不得意で、どんなことが自分を構成しているのか。これを分析して自分に合ったスタイルを確立していく必要がある。
半端なプレイヤーはここを理解していない。
拳一発でスケルトンジェネラルの盾ごと吹っ飛ばす。衝撃で後退した敵を追ってジェットシューズを噴かし前進。その勢いのまま逆手でもう一発殴る。
殴り合いは正直あまり好きじゃない。だが、俺が持っている攻撃手段の中ではそこそこ威力が高い。
昔、クソな親父と殴り合いの日々で荒れていた頃を思い出してイラつくからだ。不本意だが、それが攻撃の意志として自己強化をもたらす。
ポジティブでもネガティブでも、自分を知っていれば活用できるわけだ。
3発、4発と殴り続けるたびにダメージ量が増えていく。途中何度か反撃を貰っているが、こっちが倒れる程のダメージ量にはならないから放置。結局8発目で相手のHPはカラになって、決着と同時に砕け散って消えた。
戦い方
戦闘終了を確認し、はあ、と一息吐いて気を落ち着ける。これをやった後に誰かと目が合うと、相手が後退りすることがある。俺はどんな顔をしてんだか。
「ギィィィ!」
乱戦の真っ只中で気を抜くという、普通に考えて迂闊過ぎる自分自身にツケが回ってきた。背後に迫る別のスケルトンジェネラルに気付かなかったのだ。
くそッ・・・!やっぱ肉弾戦なんか止めときゃよかった。これをやると冷静さを欠いて、普段なら絶対やらない馬鹿をやらかす。
焦って振り返った瞬間、視界に入ったのは剣の切っ先。回避も間に合わないタイミングだ。
ドォンッ!!
クリティカルを覚悟したとき、目の前から相手が吹っ飛んだ。飛んで行った敵を目で追えば、現在進行形で火達磨になっている。
「火葬だオラァア!!」
声がしたのは、未だ2陣が遠距離からの攻撃を継続する自陣の方向。そこにいたのはスチームパンクなデザインの装備に身を包む男。
「ヒャッハー!!」
男は自分の周囲に自動小銃やらロケットランチャーやらを多数固定し、攻撃してはリロードを待つ間に武器を換え、一瞬のタイムラグも発生させることなく攻撃を継続している。
今現在奇声を上げながら乱射しているのはマシンガンだが、さっきスケルトンジェネラルを吹っ飛ばしたのは、すぐ横で硝煙を上げている大砲だな。遠目から見てもあいつの周りだけ小さな要塞のようになっている。
俺は効果が薄いと見て避けた銃撃だが、あいつは錬金術をや呪術を組み合わせて弾丸や砲弾を独自に改造・開発し、追加効果や魔法効果なんてのも付与している。
とにかく銃火器による戦い方に心血を注ぐ男、センナ隊所属のブルーノだ。
こいつの凄いところは、その視野と戦闘領域の広さだ。
今現在火達磨になっているスケルトンジェネラルに対して、マシンガンで光属性を付与した弾丸を撃ち込み続けている。が、敵がダウンから起き上がらないのをいいことに照準を固定して、本人は更に隣にある別のロケットランチャーの元へ移動する。
ロケットランチャーで狙ったのは、俺のいる場所から100m以上離れた場所。1人で複数を相手している3陣のプレイヤーが持て余す、ゾンビ系の敵だ。
ブルーノの居る位置からは相当に離れているのだが、狂いなく正確に攻撃を命中させる。不意打ちによるクリティカルと、火属性による属性優位が効いて、一撃で瀕死にまで持っていく。
ブルーノのアシストを受けたプレイヤーはこれを起点に体勢を立て直したらしく、瀕死のゾンビに止めを刺して戦闘を続行させた。丁度近くで戦っていた別の仲間が、自分の相手していた敵を片付けて助太刀に入ったようなので大丈夫だろう。
”作戦行動は3陣参戦直後まで”。だから今現在は、全員が個人の判断で好き勝手に戦っている状態だ。つまり、チームに役割として求められた行動ではなく、本人の欲求に従った行動が推奨されるという事。
ブルーノは銃火器を握っているとテンションが上がるというヤベー奴だが、同時にそれを生かせる環境を求めている。
近接戦闘スタイルのプレイヤーが入り乱れて乱戦になっている状況、どうしても視野に入りきらない敵が出てくる。目の前の相手に集中すれば、それ以外の敵に対する警戒が疎かになりがちなのだ。
その環境下で、ブルーノは戦場を俯瞰し、長いレンジを生かして味方を援護しつつ存分に銃火器遊びに興ずる。自分の欲求と味方の利を両立する立場を確立した。
個人の特性を生かし、補い、集団での勝ちを取りに行く。これが、”群戦派”の戦いだ。
次話へ
戦闘は体動かすから腹減るんだよな・・・。口に放り込めるようなのは常備しとくと便利でいい。
特にこういう長期戦ではな。
ブルーノは・・・、スルメか・・・。
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