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【外伝】千歳、翡翠洞攻略編:#8

水無月みと

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高難度ダンジョン

ドラゴンゾンビのドロップアイテムは鍵だった。

つまり、どうあっても”見えざるドラゴン”の謎を解かなければ先へは進めなかったという事。ただの戦闘妨害ギミックなどではなかった。

そして戦闘開始前にシュシュが言っていた、「侵入プレイヤーにどんなのが居るかも考えて問題出してくる」という話。

これはVアバでログインしている俺がいるからこそこのギミックを出題してきたという事だろう。バーチャルGーsideにログインできる者が居なければ解きようが無いからな。今回以外がどんなものだったかも気になるが。

「まあいい。ロクシィ、地下へ戻るぞ」

<えー?別に戻んなくたって、お片付けしなきゃいけない敵さんはあそこに見えてるじゃん。あいつらハザマに居るんだから、バーチャルから戦ったって一緒だろ>

「それでは味方との連携が取れない。敵軍の姿が見えていても、味方同士で互いの姿が見えないようでは同じ敵を同時に狙ってしまう可能性がある。それは非効率だ」

例えば俺が狙い定めた敵を、攻撃がヒットする直前で地下Gーsideに居る味方が撃破したとしよう。それは俺の攻撃が、既に死んでいる敵に対してされるという事。無駄以外の何物でもない。

味方が見えてさえいればこの事態は防げるのだ。再ログインには若干の時間を食うが、どちらがよりコスパが良いかと言えばこちらだろう。

<なーるほど>

「わかったらさっさとやれ」

<了解>

ロクシィはいちいち納得しなければ仕事にかからないのがたまきずだな。見方によってはより効率的な方法を提案しているとも言えるのだが。

視界が再度切り替わり、地下Gーsideへの再ログインが完了した。と同時につんざくような爆音。

『派手にやっているな。未だに』

『ホシガキ!戻ったばっかで悪いが参戦できるか!?わざわざ”未だに”って強調してくれたとこアレだが、ぶっちゃけお前の嫌みに反応してられるほどの余裕もない!』

『・・・何かあったか』

即座に走り出しながら問う。

ドラゴンゾンビを引き離すために広間の反対端に居たことがアダになったな。距離があって目視では確認できない。

サポートがメインのはずの苔の助が余裕を失うとは。

『敵軍が変質した!お前がドラゴンゾンビを倒した直後からだ!鱗は生えるわ毒攻撃はしてくるわ、あのドラゴンゾンビの能力が敵全軍に引き継がれてる!1体の撃破に時間がかかるようになったせいで、倒す数より追加の敵の数が多くなっててジリ貧なんだ!』

『敵全軍だと・・・?あとどれだけ倒せば終わる?』

『残り3分の1は切ってるはずだ!それでもそもそも倒さなきゃいけない数は俺たちの5倍だからな。まだこっちの数より敵の方が多い!』

クソ・・・。ドラゴンゾンビのギミック自体はスムーズに解いたというのに、それがこんな形で裏目に出るとは。流石に予想外だ。

ジェットシューズで更に加速し一気に距離を稼ぐ。接近して自分の目で確認すると、苔の助の話を聞くより状況が悪いことが嫌でもわかった。

依然味方より敵の数の方が多いというのは聞いた。

今日ここに居る味方は俺を含めて17人。つまり撃破しなければならない敵の総数は、この5倍の85体。

そして、残りの敵は3分の1を切るという話なら、あと約30体を倒せば終わる。大雑把だが、1人当たり2体以下の負担だ。全員が戦闘可能であれば。

実際には、苔の助を含めて4人のサポート役がいる。こいつらの戦闘能力はまあ、自衛程度ならなんとかというレベル。

そして、既にゲームオーバーで戦闘不能となっている味方が見た所6人。つまり、この時点で戦えるのは俺を含めてあと7人。7人で30近い敵を倒さなければならない状況だ。

状況把握

『苔の助、蘇生と回復はどうなっている?』

『サポート班総出でやってるが、脱落者が一気に増えてて手が回り切らない!蘇生アイテムを使うにも再使用までのラグがあるから限界がある!』

『・・・わかった。そっちは頼む』

愛剣を握りしめ、こちらに背を向けているスケルトンジェネラルの首を狙い、柄で殴りつける。スケルトンに有効なのは斬撃よりも打撃。武器も使いようだ。

鎧の隙間を狙った一撃は狙い通りにヒットしたが、これだけでは倒しきれなかった。不意打ちに加えて首を砕ければ、クリティカルで撃破出来ると思ったのだが。

「・・・なに?」

正面からスケルトンジェネラルに相対して目を疑った。

通常は武装した骸骨であるスケルトンジェネラル。鎧を外せばただの骨だ。硬いもので殴られれば骨折するのと同じに、こいつらの打撃への耐性は高くない。

だから初撃で頸椎の粉砕を狙ったのだ。

失敗したのは単純に威力が足りなかったか、想定以上に硬かったかのどちらかだと思っていた。

しかし今俺の目の前に居るスケルトンジェネラルの首は、確かに砕けて上下の繋がりを失っている。・・・いや、失っていた。

砕けた骨がうごめき、元の形を取り戻すべく融合を始めている。

「ゾンビの再生能力か?しかし・・・。『苔の助、スケルトンジェネラルに再生能力が付与されている。しかしあのドラゴンゾンビにここまでの再生力は無かったぞ』」

『参加人数が難易度設定に影響してるんだ!戦闘に参加してるプレイヤーの数が多くなるほど敵も強くなる!』

『早く言え』

つまり、さっきまでは俺が1人でドラゴンゾンビと戦っていたから、奴の能力から自己再生が削除されていた訳か。

それにしても、人数が多くなると敵の数が増えるだけでなく個体の戦闘能力まで上がるのか。突破させる気あるのか?

ドラゴンゾンビの特徴が引き継がれていると聞いてはいたが、実際の戦闘時に適用されていなかった能力まで引き継ぎの有効範囲になるとは。これは他にもあると見た方が良いな。

ついさっき深刻さの評価を引き上げたばかりなのに、さっそく考えを改めさせられたな。・・・これ以上面倒な事は起きてくれるなよ。

スケルトンジェネラルの攻撃をいなしつつ戦っていると、死角から魔弾が飛んできた。まあ、計算上1人あたり4体程度は相手にしなければならない状況だからな。全方位から攻撃が来るのは当然だ。

「【リフレクト】」

リフレクトは、鏡に当たった光のように敵の遠距離攻撃を反射するだけの魔法。生憎これには”撃った相手を狙う”なんて便利なターゲット機能は無い。

どいつが撃ってきたかわからないので、近くにいた適当なゴーストメイジにぶつける。

本来ゴーストに対して魔法攻撃は有効だが、着弾直前で魔弾が掻き消えた。

「ドラゴン種のアンチマジック・・・」

もう最悪だ。クリティカルがことごとく潰されている。これを1人当たり複数まとめて相手した上で殲滅だと?普通にやっては無理だな。

突破するには

『おい、脳筋はどういう状況だ?』

『ケンシか?あいつならド真ん中で大暴れしてるぞ。あいつだけは攻撃力のゴリ押しで1、2発で撃破出来てる』

『HPは?』

『8割以上温存』

この状況でか。流石の化け物っぷりだな。

『よし。ではケンシを使い捨てる。あいつが落ちたらすぐに蘇生に動けるようにしておけ』

『はぁ!?ちょっと待て!今この状況で味方の士気が保ってるのはケンシの無双っぷりに鼓舞こぶされてるからだぞ!そのケンシを落としたら瓦解がかいする!!』

『甘ったれている場合か。既にジリ貧だと言ったのはお前だ。俺はアレウスにログインしている以上全力で戦えないし、今戦力としてまともに期待できるのはケンシくらいだろう』

『一応トンビも居るけど』

『この乱戦であの忍者かぶれがどこで何をしているかなんて分かるか』

『誰がかぶれてるってんだ変人の極み野郎』

『うわビックリしたッ!?聞いてたのかよトンビ』

個人間のTalkに割り込み・・・、シーフの盗聴スキルか。戦闘に加えて情報収集とは、仕事熱心なことだ。

『斥侯班長が状況把握してねえなんて有り得ねえだろ』

『はいはいッ!!斥侯班長と言えばシュシュちゃんもいるよ~!ウチだってちゃんとお仕事してます~!!しれっと戦力外にしないで欲しいんですけど!』

『だったら敵軍の能力について報告を寄越せ』

『現状確認されてる能力の継承は、毒攻撃・自己再生・竜麟りゅうりん・アンチマジック・飛翔・腐食攻撃・闇魔法・眷属召喚だ。元々の敵個体のランクはA~AA程度の評価だが、今はAA~AAAまで上がっていると見て良い』

『能力継承はほとんどが1種類だけだけど、たまーに2種以上貰ってる奴もいるっぽい!ちなみにそいつら健在!』

『何?』

『1体はケンシさんのとこでドンパチしてるけど、もう1体はうろうろ歩き回って通り魔してるね。そいつに4人やられちゃってる!』

『その2体は?』

『ケンシと戦闘中なのがスケルトンジェネラル。自己再生・飛翔・闇魔法を使う。徘徊中の方はハイウルフゾンビだ。腐食攻撃と眷属召喚を持ってる。ついでに眷属も腐食攻撃の能力ありだ』

『ちなみに眷属ってのは普通のウルフゾンビね!今んとこ3体までは同時に呼び出してるっぽい!』

『それは容赦ないな』

蘇生で復帰している分を考えても、随分脱落者が多いと思ってはいた。むしろこの状況を考えればよく保っていられたと考えるべきか。

『尚更もたついてはいられん。敵全軍をケンシに引き付けるぞ。ケンシ以外の全員で、あいつもろとも吹き飛ばす』

『これを聞いても変更なしかよ!?ていうかもろともって、ケンシが死ぬの確定じゃねえか!』

『だから即座に蘇生できるようにしろと言ってるだろう。それに、恐らくそれでも殲滅は出来ない。敵軍のHPを大幅に削り、ケンシ以外の仲間でも倒せる程度にまで弱らせるのが目的だ。要は、戦力外の味方をキラーとして復帰させることが出来ればいい』

とにかく敵を倒せる味方の数が少ないのはまずい。通常ならばAAAランク程度は個人で倒せるメンバーでさえも、複数に囲まれて数を減らすどころではない。

それでもケンシは各個撃破出来ているようだが、話にあったスケルトンジェネラルとの戦闘の合間にとなると、手間取るのは必至だ。

『それに、複合はもう1体いると考えた方が良い』

『なんでだよ?もう敵軍のおかわりは今いる奴らで全部だぞ。これ以上新種は増えないはずだ』

『可能性の話だ。さっきの話を聞く限り、毒攻撃・竜麟・アンチマジックの複合がいない』

まだ入り口でしかないというのに、このダンジョンの難易度と言ったら容赦がない。ならば尚更、手抜きは無しだと見ておいた方が良い。全く嫌になるが。

『それは俺も気にはなってた。だが探してもそれらしい奴は発見できてねえ。もしかすると隠匿してるやつがいるかもな』

『う~げぇ~・・・。それはマジ勘弁なんですけど~』

『うるせえ。それを探すのが俺らの本分だろ』

『いやわかってるし!腕が鳴るわって続けようとしたとこだったの!!』

『さっきのからどう続けたらそうなるんだよ』

ぎゃあぎゃあとどうでもいい口喧嘩が始まっているが、こいつらは放っておいても仕事はするだろう。

まずは味方全軍への作戦周知だ。個別に連絡するよりも、ケンシを含めた全員へ一度に通達した方が良いな。

あの脳筋、何も考えていない節はあるが、それ故にこっちの考えに無駄な意見を挟まない。加えてなかなか人望もある。ケンシさえ納得させてしまえば、他の連中はついてくるはずだ。

・・・頼むぞ。

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