トッププレイヤーの人外バトル
「ん?なにを」
「いや、俺らが全滅したらディキさん達にあのクソ兵譲るって言ってたんだよ」
アレンにCallの接続を了承し、通話を開始する。
『よお、お疲れ。大分派手に死ぬハメになったな』
『ほんとですよ。ていうかディキさんちょっと笑ってません?こっちは軽くトラウマになりかけてんですよ?』
『悪い悪い。詫びに面白いもん見せてやるから期待してろよ。今回は配信やらねーから独占観覧だぞ』
『冗談抜きで期待しますよ?』
通話を終えて、他のメンバーにも伝える。
「おおマジで!?死んだ甲斐あったわ」
「生徒の敵討ち的な?流石先生やるね」
「もうちょい離れた方が良いっしょ。邪魔になるから」
三者三様にテンションが上がっている。それはそうだ、なにせあの2人は全国的にも有名なトッププレイヤーなのだから。
ディキさんもケンシさんも配信チャンネルを持っており、どっちも100万人以上のフォロワーがいる人気チャンネルだ。
そして特に人気の配信が戦闘である。生身でログインするGーsideにおいて、スーパープレイというのは映像だとしても半端ではない迫力なのだ。
何せ体が動かないことには近接戦闘プレイヤーにはなれない。中の人が自力で動いていると分かっていて、空中戦や超高速戦なんて見せられたら熱狂しないわけがない。
普通のゲームなら、なりたいスタイルに合わせて腕を磨けばどんなプレイヤーにだってなれるだろう。だが、Gーsideではそうもいかないのだ。
”身体能力”という人間的な限界というものがある以上、万人が”何にでもなれる”なんて夢物語は成立しない。何でそんな厳しい現実をゲームの世界で突き付けられねばならないのかと言いたいところだが、だからこそこのゲームにハマるのだ。
Gーsideではステータスなんて参考値だ。
実際に”攻撃力”が上がれば相手に与えられるダメージ量は増えるし、”防御力”が上がれば相手から受けるダメージは減る。だが数値が高かろうが低かろうが、プレイヤーの技術でいくらでも引っくり返せる。
特に”速力”なんてものは、AIが判断した”本人の身体能力的に可能な速度”を指すのである。つまり体力テストの50m走とやってることは一緒だ。しかし、Gーsideにおける戦闘で自分の足だけで敵にかじり付く剛の者など聞いたこともない。
皆何かしらのガジェットを使って機動力の底上げをしている。何を使うか、どう使うかで天と地ほどの差が出るし、元々の”速力”なんてそもそも何で存在するのか解らないレベルだ。
4人で観戦するのに良さそうな場所を見繕いながら、標的をなくしてフラフラ彷徨いだしたクソ兵の後ろを付いていく。すると道の先から「ドルルルン」というやかましいバイクの音が聞こえてきた。
音がした方に目を向けると、真っ黒な大型バイクに跨り長銃を担ぐ我らの先生ディッキアさんが。
・・・完全に悪役の登場なんだが。しかもあの銃改造しまくってるよな。前に配信で見た時と微妙に形状変わってるような・・・。
そしてその上空には、ジェットシューズで直立不動のケンシさん。
文字通りジェットが付いた靴であるジェットシューズは、他のあらゆる移動用ガジェットの中でもぶっちぎりで扱いが難しいとされる。その難易度たるや地上でも競技として世界大会が開催される程で、スピードを競うレースや技術を競うパフォーマンスはかなりの迫力だ。
そのパフォーマンス競技の中でも”空中静止”というのは最高難易度とされている。そりゃあ常にジェットで推進力が働いてるモンが足についてて静止なんて、超人級のバランス感覚とマッチョな体幹が無かったら無理だ。
それをただの待機姿勢として披露するケンシさんの異常さが分かるだろうか。伊達に「ほぼ人間辞めてる」だの「大体人間」だのという酷い呼び方はされていない。
・・・あとそのサイコキラーみたいな笑顔止めませんか?真面目な顔で正面しか見てないディキさんは気付いてないのかも知れないですけど、俺らにはバッチリ見えてますからね?
今のケンシさんをまとめると”人外サイコキラー”ってヤバいでしょ。
そして2人の存在に気付いたらしいクソ兵が体の向きを変え、戦闘BGMが流れ出す。
同時にディキさんがエンジンを噴かして前に飛び出す。エンジン音の合間に銃声が響き、攻撃を食らったクソ兵のターゲットはディキさんへ。
凄いな。まだ始まったばっかりだけど、これを見てるだけでもテンションが上がる。
バイクの性能もあるんだろうが、ものすごい勢いで加速してあっという間にクソ兵の足元に辿り着き股の間をすり抜ける。ドリフトで方向転換しつつ銃撃を続行しダメージを稼ぐ。
「うおぉ!あのバイクって”マティーニ”だよな?自動走行無しだとあんな加速できんの!?」
「マティーニ?バイクなのに酒の名前付いてんのかよ」
「世界で最初にレベル5の自動運転を搭載したバイクなんだよ。ライダーが酒飲んでても問題なしってことでその名前なんだ。他にも酒バイクのシリーズあるけど、あれが最上級モデルになってる。基本自動運転解除する人いないし、あそこまでスピード出るのは知らなかったなぁ」
「ていうか、あたしの銃じゃ全然ダメージ出なかったのに、先生のはちゃんと効いてるね・・・」
「当たり前でしょ。装備の性能もステータスもスキルもあっちの方が断然上なんだから。むしろそれでも効かなかったらどういうレベル設定だって話よ」
ディキさんのプレイを見ながらああだこうだ言ってるうちに、待機していたケンシさんが攻撃態勢に移った。
ディキさんを追って背中を見せたクソ兵の背中へ一直線に飛ぶ。接触するまでの短時間のうちに拳に雷を纏わせ、そのまま左肩を貫いた。
「マジ!!?一発で腕とれたぞ!?」
「うーわー・・・。これリアルで言ったら厚みメートル単位の金属の塊を拳骨一発で粉砕したってことになるよね。どんな威力よ」
「あの人は大体人間だけど人間以外の何かしらで出来てるから」
いやまあ、一応ゲームだからなこれ。
しかし実際あいつはホログラムなので、腕ごとぶっ飛ばさなくても貫通はする。だが実際に腕を落とせるだけの攻撃力が無ければ落ちることはない。
それが起きてるってことは、システムによって「この一撃は機械巨兵の部位欠損を引き起こすに十分な威力である」と判断されたことを意味する。
・・・うん。やっぱバケモンだわ。
一撃で半分近くHPを削られたクソ兵のターゲットはケンシさんに移り、空中を飛び回る標的に向けてとんでもない弾幕が展開される。
それをこともなげに全部避けきり怒涛の連撃を叩きこむ”大体人間”。動体視力と反射神経どうなってるんだ。
ターゲットが移ったことでディキさんがフリーになっている。しかしどうやらタゲを取り返すつもりのようで、やたらと派手に音と衝撃を炸裂させる特殊弾を命中させた。恐らくヘイトを上昇させる仕様のものだろう。
思惑通りに釣られたクソ兵がディキさんに腕を伸ばす。今度は飛び道具ではなく直接腕で攻撃を仕掛けてきた。
しかしさすがのライディングで躱し、追ってきた腕もバイクの後輪を持ち上げて振り回す事で弾き飛ばした。なんだあれ、逆ウィリーみたいでかっこいいな。
「おお!ストッピーだ!」
「名前あんのか。しかしさっきからやたら詳しいなお前」
「おう、好きだからな!伊達にドローンバイクで通学してねえ!」
あの2人が登場した段階から目ぇキラッキラしてると思ったが、バイクに興奮してたのか。
ディキさんは後輪で弾きつつ180度方向転換し、今度は前輪を持ち上げてそのまま・・・、空中に走り出した。
「え、飛べんのあれ」
「当たり前じゃん」
当たり前って言われても・・・。カラスの乗ってるドローンバイクはそもそもタイヤが無くて飛行専用だし、他に見かけるドローンバイクもそんな感じだったから飛行・走行どっちもいけるやつなんて初めて見たけど。
「最高級モデル舐めんなよ」
知らんがな。
バイクで上昇していくディキさんと、クソ兵を挟んで対角線上から降下してくるケンシさん。その2人が交差する場所は、クソ兵の頭だ。
頭部を挟んで右と左側をそれぞれ通り抜け様に攻撃を叩きこむ。それで残っていたHPの全てが消し飛び、一瞬の硬直の後に爆発四散する機械巨兵。
空中で拳を突き合わせている2人がめちゃくちゃ格好良く絵になっている。流石トッププレイヤーだ。
「「「「おぉ~~~」」」」
4人で拍手しながら歓声を上げる。
「どうだ?ちょっとは参考になるといいんだけどな」
「凄かったっす!俺もバイクもっと練習しないと!」
「ケンシさん、もの凄い加速してましたけど怖くないんですか?」
「慣れだな。これでも5年も攻略ギルドで主力やってんだ。伊達じゃねえよ」
ディキさんとケンシさんの所属する攻略ギルド「千歳」は、全国に山ほどあるギルドの中でも結構有名なのである。
何せギルド内でA・B・Cと3チームも作れるほどの人数を抱えており、それぞれのチームリーダーはもれなく有名人だ。
そしてこの2人、3チーム中最も攻撃的と評されるAチームのリーダーとサブリーダーなのである。そりゃあ強い。
「で、お前らそのままじゃ遊べねーよな。セーブポイント戻らねーとな」
ディキさんがニヤっとしながら俺たちを見た。
「・・・・・そっすね」
「俺たちも一緒に行ってやるよ」
「狙ってましたね?」
「別にその為に見殺しにしたわけじゃねーよ?けどオイシイのが分かってんのに無視するなんて、攻略ギルドが廃れるだろ?」
Gーsideゲームには非常に意地の悪い仕様が存在する。
①ゲームオーバーになったプレイヤーは、本人が指定した復活地点(つまりセーブポイント)まで自力で戻らなければならない。戻るまでゲームに復帰できない。
②ゲームオーバー後、セーブポイントへ向けて移動中のプレイヤーの周囲には、レアアイテムやレアモブが発生しやすい。
①はまだ分かる。実はGーsideでは、ゲームタイトルに関わらずプレイヤー本人の体を鍛えることでほんのちょびっとだがステータス上昇が見込めるのだ。
つまり歩けば気持ち程度だが強くなれる可能性もあるわけで、負けちゃったんだからちゃんと鍛えましょうって事なんだろう。
問題は②だ。中にはわざとパーティーメンバーを復活させずに連れまわし、アイテムや経験値を荒稼ぎする者もいるらしい。それが合意の上であれば問題ないが、そのせいで搾取されてしまったプレイヤーというのも話に聞く。
もちろん今回俺たちは2人が着いてくることに文句はない。既に一度蘇生アイテムを奢ってもらっているし、迫力あるバトルシーンを見せてもらったんだから。むしろ多少のお礼にでもなればいいけど。
結局その日俺たちがセーブポイントに戻るまでの間に、ディキさんとケンシさんは2体のレアモブと1個のレアアイテムに遭遇し、俺たちの復活を見届けてからホクホク顔で去っていった。
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