少々長いので、途中まで読まれている方は目次からジャンプできます
旅立ちとお遊びと昼飯
「風邪引くなよ!ちゃんと連絡寄越せよ!」
「お互い次会う時の為に話のネタ溜めとけよ!」
「あ、お土産期待してるから。京都とか行く人は八ッ橋買ってきて」
「いや自分で行けよ!」
なんて、さながら卒業式のようなノリで地元を旅立ってから早1週間。いやあ、登校期間の最終日はわくわくで、皆凄いテンションだったなぁ。
そして今、仲間たちは全国に散り、各々気の向くままに冒険を楽しんでる頃だろう。
・・・なんて、思っていた時期もありました。大体3日間くらい。
「ちょっと!また増えたんですけど!?食べ合わせ最悪コンビ、フォローお願い!」
食べ合わせ最悪・・・。俺と悠馬のアカ名が、たくあんと焼きサバであることに由来する。漬物と焼き魚って一緒に食わん方が良いらしい。でも名前はもう付けちゃったし。そんなん知らんし。
「その呼び方なんとかならん?」
現在地、いわき。一緒に遊んでいる人、いわき校生34人。
いや、考えてみれば、普通に地点設置型のポータルを使えば一瞬で帰省できる。更に、各地に拡散していった仲間たちからだってポータルで呼んでもらえれば一瞬でコンニチハな訳で。・・・あの人生の門出のような別れは何だったのか。
今これだけの人数が集まって遊んでいる理由。それは、東京まで行った茅野からのタレコミ「レイドイベント来るらしい!」である。
レイド。つまり大人数参加型のバトルコンテンツ。その形態は多少ゲームによっても違いがあるが、時には数十人単位で開催されることもある。そして今回はまさにそれだった。
「じゃあ全員集合」
茅野のタレコミがグループCallで回されるや即決。そしてイベント当日を迎え、朝からみんなで集まって、今レイドボス戦の真っ最中。
「とぅ!!」
ボスが呼び出した雑魚敵に飛び蹴りをキメ、キャシーこと夏井に任命された”お掃除係”を完遂する。
「よっしゃあ!戻るぜ!じゃぱもんバフくれ!」
数少ない地元勢、鬼塚君。地元勢という事は、Vアバ参加の俺たちとは違い彼は生身で参加しているのである。つまりログイン先はunknown。
「おっしゃあ曲くれ!」
例の東京勢”茅野紬”。彼女が仕入れてきた”レイドイベント開催”の情報は、実の所おまけでしかなかった。
どうも東京に行ってunknownトップ層との繋がりが出来たらしく、unknownに関してかなり重要な情報をもたらしてくれたのだ。
1つ、unknownのプレイヤーがいれば、他ゲームログイン中のプレイヤーともパーティーが組める。
2つ、Gーsideゲームにおいて、”プレイヤーの心的要素”を無視してはいけない。
特に2つ目に関しては、重要過ぎて情報が出た直後にいわきで”直接会議”という名の情報交換が開催された程だ。
話は戻るが、俺にバフを要求されたじゃぱもんは、リアルでめちゃくちゃ歌が上手いのである。”心的要素”と聞き、彼は楽器を扱えるメンバー数人を集めて臨時でパーティーを結成した。パーティーというかぶっちゃけバンドだ。戦闘と言えばかっこいいBGM。それを生歌で披露してくれるという訳。
ただでさえ戦闘中でテンションぶっ壊れてる状態。そこに生歌で聞く疾走感あふれる超カッコイイ曲。そりゃあアガる。
ゲーム的にはいわゆる”呪歌”というやつだが、ぶっちゃけGーsideでの扱いは”ライブイベント”的な。テンションぶち上がればよしなのだ。で、当然だけど、呪歌だから聞こえてる奴には全員効いてる。
≪ボス”キマイラ”の沈黙を確認。参加プレイヤーの貢献度に応じた報酬を分配。適応中の隔離措置を解除≫
「「「「「「ウェーーーーイ!!!」」」」」」
そりゃあ、バフチーム抜かしても30人。強化された30人に寄ってたかられたらキマイラも死ぬってもんだ。
野営地選定
「なー、今日どこに泊まる?」
「あー、ちょっと待った」
現在地、茨城の北の方。俺とサバは、2人して森の中を歩いている。
森の中と言ってもちゃんとした道が敷かれているから歩くのに苦労はない。それ程難易度が高くないマップだから木々の間から周囲を見渡せるし、お気楽なハイキングくらいの感覚。
いわきでのレイドイベントは午前中で片付いた。その後しばらく地元仲間たちとだべって過ごし、さっき戻って現在時刻は14時過ぎ。流石にVアバで飯を食っても腹は膨れないので昼飯もまだだ。
『伊吹、この近くの野営地ってどんな感じ?』
<夕方までに徒歩圏内って条件なら3カ所。その内昨日まで泊ってたようなのに近いのは、このまま道進んで2時間くらいかかるな。一番近いところはもう30分くらいで着けるけど>
『・・・その30分のとこって?』
<ハードモード>
「だって。どうする?2時間後まで飯お預けで頑張るか?」
「いや流石に無理・・・。『ロラン、どっか飯食えそうなとこねえか?』」
<大人しくハードモードのとこ行けよこの温室育ち。何が”野営地”だ笑わせんな>
『お前最近冷たくなってね?他のに変えちゃおっかなー』
<どうぞ。どうせMOTHERで繋がってんだ。人格変わろうが俺だしな。せっかくならエリザベートなんてどうだ?>
『いやそれ飯抜きよりハードモードじゃん!エリザ様ってあれだろ?ドSアシスタント創ろうとして事故ったとか言われてるやつだろ!?ドS行き過ぎて何も助けてくれねーらしいじゃん!仮にも”アシスタント”なのに!』
「お前なんでAIとケンカしてんの?」
脳波入力で何も口に出してないとはいえ、サバもリンクトークで繋がってるから内容は筒抜けだ。
ていうかほんと何でケンカしてんだろうな。アシスタントAIって使用者を助けてくれるから”アシスタント”なんじゃねえの?創ったFantasy-LIFEは何がしたいの。どんどん人間味増してってるんだけど。結果お手伝い拒否されましたけど?
『伊吹、たくあんが役に立たねー』
「ちょ!?俺じゃなくてロランだろ!」
<何か言ったか?少しは自分の頭使え。どんどんバカが進むぞ>
『お前ちょっとは自重してくんない!?』
何で俺のアシスタントはこんなに冷たいんだろう。最初は伊吹みたいにちゃんと答えてくれたのに。思い返せば『テストの問題解いてくれ』ってお願いしたあたりからだったっけ?しっかり怒られて、その時は「AIってスゲー」とか暢気なこと思ったけど。いやその後『地下G-side行きたいから、俺の年齢17歳ってことにして』って言ってから本格的に冷たくなったな。
「なあサバ、AIとの関係改善ってどうすればいいんだ・・・?」
「それこそロランに聞けよ」
<とりあえず楽になろうと不正にまで手ェ出そうとすんのは止めろ>
「真っ当に叱られてんな・・・」
<サバ、俺さっき呼ばれたけど結局何すればいいんだ?>
『ああ悪い伊吹。泊まるのは2時間先の場所にしたいけど、その前に飯だけは食いたい。どっか手前にないか?』
<うーん・・・、これは?>
リンクトークを通じて伊吹が見せてくれたのは、ポツンと建つログハウスっぽい建物の画像。小さいから宿泊はできないみたいだけど、休憩所と食事処を兼ねてるらしい。
「おお!いいじゃん!メニューは洋食系か?ハンバーグ美味そうだな」
「一応ここG-sideだし、まあ普通に地上にあるような感じとは違うだろうな。面白そうだし行ってみよう」
こんな森の中だからか店についての情報は少ない。店名すらわからん。とりあえずハンバーグの画像上がってるし、「美味い」ってレビューもあるから大丈夫だろう。どうもハードモード野営地のすぐそばにあるらしい。空腹状態で30分歩くのはしんどいが、目標さえ決まっちゃえば全然頑張れる。
昼飯
【シェフくまさんと森の仲間たち】
画像で見たのと同じログハウスを発見。この時点でようやく店名が判明した。
「なんかかわいいネーミングだな。ミニチュアハウスとかでありそうな感じ?」
「そういうの好きそうなタイプが来るような所か?まあ何でもいいけど」
サバと店名について話しながら店の扉を開ける。入ってすぐ右手にキッチンがあり、そこに立っていた”くまさん”と思しき人とバッチリ目があった。いや人じゃなかった。
「いらっしゃい」
熊。いや正確には獣人タイプのアバターか。にしても大分”熊”。獣人タイプって言っても、多くは”耳だけ”とか”ほぼ獣っぽいけど体格は人間”ってパターンが多いけど、これはどう見ても熊。服すら着てない。まんまエプロン着けた動物園の熊。こんな形で裸エプロンに遭遇するとは。いや毛皮エプロンか?
「えーっと、ランチ2人大丈夫っすか?」
熊インパクトで変な間が空いてしまった。ていうか熊さんめっちゃダンディなイケボなんだが。
「あらこんな時間まで頑張ってたのね。好きな席に座って」
店員さんは鹿だった。こっちは流石に2足歩行できる動物じゃないから”獣人”感出てるけど、にしてもそんなリアルに鹿再現する必要ありました?足は蹄だし、顔もなんかパーティーグッズの被り物みたいな違和感というか・・・。声とか話し方的に、熊さんは男性で鹿さんは女性っぽい。まあアバターだからどうとでもいじれるけど。
好きな席と言われたので、2人して窓際で角の席を陣取る。店の奥だし落ち着けそうだ。
「なあ、そういえばみんなで配信しあおうっつったのに俺ら何もしてなくない?」
席に座りつつサバがいきなり切り出してきた。
「あ」
そういえば忘れてた。
「他の皆はもう配信上げてんのかな?」
「見てみっか」
動画配信サイトのSpotーlightを立ち上げ、あらかじめ聞いていたクラスメイト達のチャンネルをチェックする。
「うお、茅野さっきのレイドイベントしっかり配信してんじゃん」
「マジ?大丈夫か?確かunknownに関わること配信するとペナルティあるだろ。鬼塚がunknownログインでバフ使ってたし、その辺映ってるとまずいんじゃね?」
「BGM入れて歌が入らないようにしてるみたいだ。あとは映像切って貼って上手い事映りこまないようにしてんな」
「へー」
unknownはプレイヤー以外への情報提供は一切禁止。つまり間違って配信で流してしまうなんて一発アウトの案件なのだ。だからこそ茅野が情報流してくれるまで、バフのかけ方なんて誰も理解してなかったわけで。
「どうぞー。あなた達初めてよね?ウチの店のシステムって知ってる?」
そこに店員の鹿さんが水を持ってきてくれた。システム?普通と違うのか?
「いえ、知らないです」
「うちはね、食材持ち込みOKなの。もちろんリアルな生肉なんかじゃなくて、ゲームのドロップ品とかね。この辺だとラビィ肉とかディオケロス肉とか持ってくる人が多いわね。持ち込みの場合、持ち込んだお肉の種類によって選べるメニューが変わってくるわ。シェル払いなら全メニューから選べるけど割高よ」
「「へぇー」」
テーブルに置いてあったタブレットをのぞき込みながらメニューを確認する。自分のアシスタントと連携させれば、手持ちのアイテムの中で交換できるものをリストアップしてくれる。
ハンバーグとかはどの肉でも行けるみたいだけど、ステーキはディオケロス肉みたいな大きめのモンスターの肉じゃないと無理みたいだ。ちなみにラビィはウサギでディオケロスってのはでっかい鹿みたいなやつ。
「このシステムって、お店の儲け出るんですか?」
サバが素朴な疑問を挟む。確かに、その辺に出てくる雑魚敵のドロップ品なんてただのゲームデータでしかないし、みんな余らせてるからショップでの買取額もめちゃくちゃ安い。
「ちゃんと出るわよ。私たちみたいにG-sideでお店やってる人にはね、特殊な貢献度が設定されてるの。利用者の満足度とか売上額とか、評価は色々だけど。それに応じて配布された貢献ポイントを換金するなりして利益を出してるの。今は利用者の満足度も脳波測定で嘘つけないしね」
「「へぇー」」
2人して納得し、メニュー選びに専念する。結局俺はステーキで、サバはハンバーグにした。残念ながら付け合わせになるような野菜系アイテムは持っていなかったのでシェル払いにした。正直持ってても使い道がないと思ってた野菜類がこんなところで響いてくるとは。もしかしてこういうシステムの店って他にもあるのか?
料理はどれも美味かった。何より自分で狩ったモンスターの肉が料理に化けたっていうのが、ある種の”異世界生活”感があってうれしい。
「ご馳走様でした。美味かったです」
「ありがとうございました。ぜひまた来てね」
「近くに来ることがあったらまた来ます」
「ああ、ちょっと待ってくれ。お前たちさっき配信が何とか言ってたな」
帰りがけに突然熊さんに話しかけられてびっくりした。今まで何も言わなかったのにどうした急に。
「あぁはい」
「自分たちで配信やるのか?」
「はい。って言ってもまだ何にも始めてないですけど」
「unknown関連は気をつけろよ。動画流す前に必ずアシスタントAIにNGが入ってないか確認しろ。アシスタントAIを開発したのはG-sideの運営でもあるFantasy-LIFEだからな。こいつらは間違いなく発見してくれる。逆に言えば、アシスタントが問題ないと判断すれば何を配信しても大丈夫だ」
「なるほど!ありがとうございます!」
それって結構重要な情報じゃん。自分のアシスタントに確認してもらえるなら手間もないし簡単だ。
「unknownはとにかくネットじゃ情報が得られないからな。何でもネットで調べるのが当たり前の時代じゃどうして良いかわからんだろうが、情報を得るにはプレイヤー同士の口伝しかない。ただし、地下ログイン中のプレイヤーだからってすぐに話題を振るなよ。必ずunknownプレイヤーであることを確認してからにするんだ。過去それでペナルティ食らった奴もいるからな」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「ところで、どうして俺らがunknown初心者だってわかったんですか?」
「今店にいるのお前らだけだからな。さっきの会話が聞こえてたんだ。”unknown配信でペナルティ”って言ってたろ。配信なんて決定的なことやらかした日にゃ、そんな生易しいもんじゃ済まされない。追放だ」
「えぇ!?」
「追放!?」
マジ?ただのうっかりで食らうには重すぎねえ?
「ああ。俺は地下のサービス開始からここに来てるが、過去一度だけunknownについてネットに流した奴がいたんだ。そして、その時地下にログインする権限を持ってた全プレイヤーにしっかり通達されたんだよ。”当該人物は追放”ってな。当然ネットに上がってた情報もすぐに削除されたし、今はもう痕跡も残ってないが有名な話だ。何せ当時にしたって地下に来る権限持ってるやつの方が圧倒的に多かったんだからな。それを知らないってことは初心者だろうよ」
「マジっすか・・・。つまり地下に来てる奴なら常識って事っすね・・・。知れて良かったっす」
というか、知らなかったらヤバかった。早く仲間たちにも教えてやらないと。と言ってもアシスタントが教えてくれるみたいだからそうそう無いとは思うけど。
俺たちはもう一度熊さんと鹿さんに礼を言って店を後にした。
グループcallでさっきの話を回しつつ、今日の野営地に向けて移動を再開した。
次話へ
感想・意見