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【外伝】千歳、翡翠洞攻略編:#10

水無月みと

作者の水無月みと(@MinazukiMito)です。新話投稿したらTwitterでお知らせするのでフォローしてください。

目次(クリックで移動可)

終幕

こいつの複合は、自己再生・飛翔・闇魔法だ。

飛翔と闇魔法に関してはそれ程問題ではない。魔法攻撃を行ってくる飛翔モンスター自体はそれ程珍しくもないからな。

「グガァァァァ!!」

一吠えして一気に突っ込んでくる。普通に地上を駆けてくるのではなく飛翔であるために、通常のスケルトンジェネラルとは速度が段違いだ。

「フン」

俺を目掛けてまっすぐに飛翔し、速度を殺さぬままに剣を薙ぐ。

だが、翔んでくる段階から構えが見えているのだから、躱すのは容易い。あの速度では軌道修正もままならないだろう。

体を捻りつつ横にずれ、奴の通り道を空けてやる。一瞬前まで俺が居た場所にスケルトンジェネラルが突っ込み、振り抜かれたロングソードが空を斬る。その風切音が鳴りやむ前に魔法を発動させ、奴の速度を逆に利用してやる。

「【レフトーアーススパイク】」

その名の通り、地面から巨大な棘を発生させる魔法だ。ゲームではありがちな攻撃魔法だが、アレウスではプレイヤーの任意で発動の方向を指定することが出来る。

指定しなければ真上に向かって発動し、方向を指示すれば棘の発生する向きを指定することが可能だ。

俺が指定したのは、自身から見て左方向へ向けた棘。即ち、飛んできたスケルトンジェネラルが正面から突き刺さる向きだ。

「ガッ!?」

突如出現したアーススパイクに対処できず、思いきり突き刺さって飛翔が止まる。鎧も貫通しているな。速度が徒になったのもあるだろうが、さっきの爆燃攻撃で金属鎧の耐久値も大分削れていたか。

とはいえ、刺突系はスケルトンには効果が薄い。これは単なる布石だ。

「【ぺブル砂礫ーショッ射出トーフュジオ融合ン】」

ぺブルで周囲に砂礫されきを発生させ、それを奴に向けて撃ち出しそのまま凝固させる。

ただでさえ棘に貫かれて身動きのとれない体へ砂礫がまとわりつき、棘もろとも小石に吞まれて圧し固められる。

下半身や胴体は完全に集まった小石に取り込まれ、外に出ている部分は頭と両腕のみ。

「おっと」

往生際悪く、ロングソードを掴む腕を振り回してこちらを攻撃してきた。更に闇魔法のダークボールが追加で飛んでくるが、バックステップで躱し距離をとる。

動きは封じたとはいえ、仮にもケンシを苦戦させた相手。舐めてかかるつもりはない。さっさと止めだ。

「圧殺だ。【コンプレッ圧縮ションーマキシ強化マ】!」

「ギィィィ・・・」

発動と同時にバキバキと不快な音を立てながら、小石の塊が1つの岩となるべく圧縮を開始する。スケルトンジェネラルの鎧もろとも骨の体を圧し潰し、岩に埋まる部分を粉砕し尽くす。

一気にHPを減少させ、終には外に出ていた頭と両腕が、胴体との繋がりを失って転がり落ちた。

死に損ない

念には念を。このままHPゼロまで待っても良いが、他にも敵が控えている。さっさと頭蓋をかち割って終わらせよう。

転がる頭に、思い切り剣を振り下ろした。

ガキィッ!!

「なッ!?」

突然割り込んできた剣に軌道を阻まれる。その柄を握るのは、浮遊する白骨の腕。

「ぐっ・・・」

体の無い剣の主に気をとられていたら、その逆方向から衝撃を受けて弾き飛ばされる。衝撃の正体は、タワーシールドによるシールドバッシュだ。そしてやはり、こちらも宙に浮いている。

「ゴースト?いや違うか・・・。落ちた奴の左腕・・・。まさか胴体が無くなって尚、パーツだけで【飛翔】を使ってくるとは・・・」

厄介な。剣と盾の中間で、地面に転がっていた頭が浮き上がりゆっくりとこちらを向く。

「ガァァァァ!!!」

頭蓋はタワーシールドの陰に隠れ、右腕の剣だけがこちらに突っ込んできた。2合、3合と打ち合う合間に、盾の陰から闇魔法が飛んでくる。

詠唱する口は安全地帯から遠距離攻撃を繰り出し、近接攻撃の剣は他のパーツから離れた位置に陣取って俺の動きを牽制。

その上、腕と頭しかない相手では攻撃の有効範囲が狭く、こちらの攻撃が通りにくい。

「くそ・・・・・。ドラゴンゾンビから何かと裏目に出てばかりだな・・・。こいつの複合、こうなってしまっては最悪の組み合わせだ」

胴体が無い故に踏み込みなどの予備動作が存在せず、動きがかなり読み難い。更に遠距離からの魔法攻撃も加わるとなると流石に余裕が無い。無いならば作るだけだが。

「【オート=チェインシールド】」

チェインシールドは名前の通り、鎖が盾となって使用者の身を守る防御魔法だ。

面で守る通常の盾に比べれば、防御力は劣るし刺突や銃撃にも弱い。だが鎖であるゆえに使用者本人の視認性と多角からの攻撃に対する対応力が高い。そして応用も利く。

発動時、動作の指定をしなければ術者の正面に数本の鎖が出現し攻撃を防ぐ。通常は一撃を防いですぐに消滅するが、MPを継続的に注ぎ込めば持続も可能だ。

そして、今回追加した【オート】コマンド。かなり高レベルにならなければ習得できないが、汎用性の高い指示コマンドだ。

攻撃魔法に付与すればホーミング追尾。防御に使用すれば、敵の動きに合わせて勝手に盾の位置を調整してくれる。まあ、その分燃費は馬鹿にならないのだが。

魔法が発動されると俺の足元に魔法陣が出現し、5本の鎖が立ち昇るように出現する。そしてそのまま環状に俺の周囲を漂い始めた。

ガキンッ!と硬質な音が響き、正面から振り下ろされたロングソードを鎖が阻む。2手、3手と斬り降ろされるが、全て軌道に合わせて形を変える鎖に弾かれる。

「【バインド】」

剣が鎖に接触するタイミングを狙ってバインドを発動。すると、剣を防いだ鎖がそのまま刃に絡みつく。ついでとばかりに柄を握る手も巻き付く鎖に拘束された。

身を護る鎖が一本減ってしまったが、そんなことは構わず足を踏みしめ、ジェットシューズで一気に加速。標的は安全地帯からちょっかいをかけてくれている頭部だ。

接近の間にダークボールが数発飛んでくるが、これらは左右に動いて回避する。

チェインシールドで防げないことも無いが、盾のように面での防御ではないので、魔力残滓ざんしによるダメージを受けてしまうからだ。それに、負荷がかかればそれだけ消費MPが重くなる。

「フン。高みの見物はここまでだ」

接近すると今度はタワーシールドが殴りかかってくる。大きさもさる事ながら重量が厄介だ。チェインシールドが防ぎきれず、俺に接触するギリギリのところまで押し込まれている。上手く勢いに乗った一発を貰ったら被弾するな。

MPの残量を気にしつつ、盾が動く合間に見え隠れしている頭部を狙ってダガーを飛ばす。しかし的も小さいためにそう簡単には当たらない。

「チッ。邪魔な。【バインドーグラキエス】」

シールドバッシュのタイミングに合わせてバインドを発動させる。更に【グラキエス】によってバインドに使用した鎖ごと氷漬けにして動きを封じる。

ジェットを噴かして一気に頭部に接近。その速度のままに、剣による刺突攻撃を繰り出す。

頭部も簡単にやられるつもりはないのか、ダークシールドで俺の攻撃を防ぎつつ逃げ回っている。

その時、またしても「ガキンッ」という音が背中側から聞こえてきた。バインドの拘束から逃れた右腕が、こちらに追い付いてきて攻撃を仕掛けている。

「しつこいな。流石はアンデット死に損ない

鬱陶しいが、まあいい。わざわざ構わなくても、チェインシールドが勝手に防ぐ。

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とどめ

剣は俺の背中側を陣取って攻撃を続け、俺は頭蓋を正面に見据えて攻撃を続ける。当然こちらの攻撃がヒットすれば一時的にHPは減少するのだが、削り切る前に【自己再生】による回復で止めを刺しきれない。

この戦いが始まってからそれなりの時間が経っているが、奴のHPは残り3割程度のままそれ以上回復する様子が無い。流石の【自己再生】も、失った体の分のHPまでは回復できないようだ。つまり、再生不可にさせてしまえば奴のHPの上限を下げられる。

再生できなくなった体は現在、圧縮された【ペブル】の中だ。消滅したわけではなく、粉々になった状態で封じられている。破片同士が融合できる状態にない以上、砕けた骨が元の形を成すことは不可能。所謂”部位破壊”状態だな。

盾ごと氷漬けにされた左腕も、封じられているという意味では同じだ。

だが重要なのは”体を再生させない事”ではなく、”HPの回復上限を減らす事”。しかし、凍らせただけではHPに変化は無かった。

「このままの攻撃で倒すには回復上限を下げる必要があるか。・・・まさか全身を粉砕しろとでも?」

流石にハードルが高すぎる気もするが、あのケンシの火力でも倒しきれなかったのは事実だ。

HP回復上限を減らしていけば、【自己再生】が追い付く前に通常攻撃で削り切る事も出来るようにはなるだろう。しかし、残り3パーツまで減らしている現段階でそれが出来ない以上、破壊する部位が一部でも全部でも大して変わらん。

「あぁ・・・、面倒くさくなってきた」

”ケンシの火力でも無理”だったのは、あくまで奴のパーツが全身分揃っていたからだ。今ならHP上限は3割。

雑な戦い方はあまり主義じゃないのだが、大技を使うか。それにこれ以上時間をかけたくもない。他の仲間たちの戦いも片付きつつあるようだしな。俺が誰よりも遅いなど、プライドが許さん。

「【ブレイ解除ク】」

左腕を封じていた【グラキエス】を解除。氷から解放された腕はすぐさまこちらに飛んでくる。

左腕がこちらに合流するタイミングを見計らって、ジェットシューズを噴かし真上へと跳び上がる。

「【ショッ射出トージェイル】」

自分の周囲に残っていた鎖を全て、真下の敵に向けて撃ち出す。ここから先は俺の周りにあっても役には立たないからな。最後の有効活用だ。撃ち出した目的は直接攻撃ではなく、牽制。更に【ジェイル】によってまとめて檻の中に閉じ込める。相手の行動は阻害するが、こちらの攻撃は通す便利な魔法だ。溜めに時間のかかる大技発動時は必須。

「【アエロナウ空軍ティカ=ディアブ悪魔ロールプトゥ突撃ーラ】!」

そして、攻撃の為呼び出したのは【悪魔による空軍部隊】。位置取りは俺よりも少し下。スケルトンジェネラルを封じた檻と、その上空にいる俺の中間地点。

【ルプトゥ突撃ーラ】のコマンドと同時、呼び出された悪魔たちが一斉に檻を目指して急降下を開始する。攻撃魔法のおまけつきで。

【軍】コマンドで呼び出された兵士はプレイヤーの指示に従い行動するが、それぞれ自立した自我のようなものをある程度備えている。

その為コマンドが【突撃】だけであっても、コマンドの範囲内で自立行動をとる。今回の場合はそれが【攻撃魔法】だ。悪魔兵は他の種族に比べ、破壊・攻撃的な性質が強い。

降下中に発射された攻撃魔法が着弾。続いて悪魔兵本体による近接攻撃が連続でヒット。

「【エリュプシ噴火オン】」

【ジェイル】を中心に魔法陣が広がり、中心から赤く染まっていく。悪魔たちの攻撃が止むタイミングで魔法陣から炎が噴き上がった。

轟々ごうごうと燃える炎の中、檻に封じられたスケルトンジェネラルが消し炭となって消えていく。

・・・オーバーキルだったか?

「うーわ。容赦ねーww」

「なんだキメラ。暇そうだな」

「ちゃんと働いてたっすよ?ですけど敵が減ったもんで。つーか、下手に動いて誰かと狙い被ったら嫌じゃないっすか。まして班長なんかとバッティングしたら地獄っす。あ、MPポーションどーぞ」

キメラからポーションを受け取って使用する。

「他の複合は?」

「ハイウルフゾンビはシュシュさんとロジが殺ってたっすね。あと『多分いる』って話だった毒攻撃とかの複合も見つかって、現在進行形で班長と戦闘中っす。つーか、その戦闘範囲が広いもんで、下手に近付くと流れ弾喰らいそうで怖ぇんすよね」

「そうか。まあ、放っておいて問題あるまい」

「えー。ホシガキさんが参戦してくれりゃあとっとと決着つくじゃねっすか」

「お前がやればいいだろう」

「いや班長怖いっすもん。それに連携するならホシガキさんのほうがいいじゃないっすか。実力的に」

狛犬あたりがやるだろう。それより、周りの戦闘の情報を寄越せ」

Aチーム斥侯班員キメラ。自分自身で何かするよりも、他人の行動に興味を持ち観察に時間を費やすことを好む。今も俺の戦闘終了と同時に現れた所を見る限り、戦闘はそこそこに観戦していたんだろう。斥侯としては間違っていないと思うが。

「了解っす。つっても面白かったのは少数っすけど」

「それはそれで必要な情報だが、満遍なく話せ」

いい笑顔だなキメラ。まあこれ自体ゲーム遊びだ、楽しんでいるようでなにより。

俺は参謀。このダンジョン攻略の為、頭脳としてここに呼ばれた。既にそこそこ苦労させられているが、まだここは入口だ。

そして今回裏ルートへ侵入する目的は、本格攻略の前の情報収集。

本気で攻略しなければならないことは理解した。ならば、参謀としての役割に集中するとしよう。

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