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【外伝】千歳、翡翠洞攻略編:#4

水無月みと

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水無月みと

ちょっと時系列戻ります。

目次(クリックで移動可)

世話が焼ける

5月。4月に溢れかえっていたあらゆる新人達が新しい環境に慣れ始める季節。

とはいえいい加減社会に出て6年目ともなれば大して関係ない。

・・・と思っていたのだが、今年は全く穏やかではない。Cチームで好き放題にやってくれている馬鹿者のせいで。

『おい、いい加減あの勘違いした大馬鹿をどうにかしろ』

ホシガキ・・・』

通話相手の情けない声を聴いて余計に苛立いらだちが募る。

『その、何度も言うけどアイツも悪気はないんだよ。もちろんお前やハルや他の幹部達への態度はあんまりよろしくないけどさ・・・』

『フン、悪気?あの馬鹿が計画的に馬鹿をやらかせるような頭を持っていると思うのか?何一つ解っていない、何も考えていないだけだ。お前がチームメンバーをどう考えていようが勝手だが、いい加減救えない馬鹿はさっさと見限るべきだ。アレはまともな脳ミソを持っていないから上位者からの忠告も助言も聞き流すのだろう。知識にも思慮にも欠ける上に、客観的視点も無いから己の無様に気付きもしない』

一切の遠慮なく、あらん限りの蔑如を込めてこき下ろす。通話相手、Cチームリーダー”コータ”が呻く声が聞こえる。

『本当に済まない。この間のPVPPlayer VS Playerイベントでの事があったから余計に怒ってるんだろ?今レシオと一緒に言い聞かせてるんだ。もう少し時間をやってくれないか?』

『お前もアレに引き摺られて馬鹿になりかけているんじゃないのか?はっきり言わなければ理解できないらしい。現状Cチームは千歳の”腐った林檎”になりつつある。いや、既に浸食が始まっているな』

『・・・・・・・』

閉口したな。いつまでも庇い続けていられるとは思っていないだろうが、いい加減目に余る。そろそろこちらも限界だ。

『アレのやっていることは千歳の名声を食い潰す行為だ。いくらA・Bチームで実績を挙げようと、挙げたそばからイナゴに食いつくされては損失しか残らん。解らんとは言わせんぞ、Cチームリーダー』

『・・・すまない』

蚊の鳴くような声だな。本気で申し訳なく思ってはいるのだろう。是非とも行動に移してもらいたいものだが。

しかしこの忠告も、既に何度目かわからないほどの回数にのぼっている。ダメ押しといこう。

『正直に言えば、最早馬鹿1人をどうにかしたところで回復できる状態ではない。最悪は、Cチームそのものを切り捨てなければならない状態になりつつあるのだ』

『それは』

『コータ。元々A・BチームとCチームでは構成メンバーのルーツが違う。千歳の古参である俺たちはわかっているが、創立後に入団したメンバーはCチームだけが東京に拠点を置く理由すら知っている者は少ない。そして、普段ギルマスとの交流もほとんどないくせに、堂々と”千歳”を名乗って東京で好き勝手に振る舞うCメンバーがどう見えていると思う?』

『・・・・・・』

気まずそうに再び閉口する。

『アレが入団してから2年半といったところか?今年の春はまた派手にやってくれたようだな。俺としては止めて欲しかったところだが、お前は何をしていたんだ』

”馬鹿”が何をやらかしているか。それは、質の悪い人間を大量に引き込んでいる事。

その”大馬鹿に呼び込まれた馬鹿の集団”はCチーム内で幅を利かせているばかりか、素行の悪さ故に千歳というギルドの評判を著しく下げている。

更にCチームだけが東京に拠点を置くという、物理的な距離感も非常に悪い方向に作用した。

東京には基本的にA・Bメンバーはいない。つまり、東京のプレイヤーにとってはCチーム=千歳と認識されているのだ。不本意極まりない。

『ごめん・・・。その、メンバーが増える事自体は良い事だと思ったんだ。それに、4月と言えば地下が解禁になった高校生たちが沢山やってくるだろう?Cチームの理念は”成長”だし、初めて地下に来る子たちには色々教えてあげるべきだと思ったんだ・・・』

『今のCチームに”教えられる土台”なんてあると思うか?本当にお前まで馬鹿になったらしいな。というか、教えるつもりがあったのなら、少なくとも大馬鹿と馬鹿共から引き離すくらいの配慮はするべきだっただろう』

俺の声に怒りが滲んでいる事を感じ取ったらしい。本日何度目かわからない呻き声が漏れている。

『半年だ。秋までにどうにかしろ』

『わかった・・・』

通話を終え、温くなってしまったコーヒーを飲み干す。

<おーこわ。コータ縮みあがってたじゃん。でもまあ、僕は君に賛同するよ>

「黙れロクシィ」

<イラついてるねぇ。でも黙るわけにいかないんだよね。横ちゃんからメッセージ来てるから>

「・・・。何だ」

あまり聞きたい気分ではないが、あいつは今、大阪のダンジョンに先遣隊として調査に向かっている筈だ。俺に連絡を寄越すという事は何か行き詰まったんだろう。仕方ない。

『ホシガキ、今調査中のダンジョンで厄介なギミックが発生してる。手伝ってくれ。・・・ぶっちゃけお前が来ると他の問題起きそうだから頼りたくないけど』

ロクシィが読み上げたメッセージの内容は予想通りだった。

「ロクシィ、伝えろ。『仕方ないから手伝ってやる。それと、確かケンシがそっちに居たな。丁度いいから八つ当たりにつき合わせてやる』」

<送信完了>

そして帰ってきた返信がこれだった。

『八つ当たりって何だよ!?来る前から問題起こす気満々じゃねえか!!・・・とにかくカンゴームで合流しよう。ケンシに八つ当たりは止めろよ?俺の負担が増える!』

Cチームの件は秋までは待つとした以上、今は静観する。こっちも切り替えるべきだろう。ダンジョン攻略は丁度いい気分転換になりそうだ。

フン。期待には応えてやるとしようじゃないか。

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