\ 読書・創作のおとも/
学校終わりに集合
いわき校の2人が水戸校にやってきてから数日。金曜日の学校終わり。
約束した通り、3パーティー合同でG-sideへ行くことになった。
「この辺って妙に入り口密集してるな。15分くらいで移動できる範囲内に3ヶ所もあるじゃん。混雑しなくていいな」
「場所にもよるよ。この辺は学校が多いんだ。人が集まりやすいから入り口もいっぱい造ったんじゃねえ?同じ水戸でも30分以上かけてこの辺まで移動してからG-side行くって人もいるし」
総勢10人の大所帯で地下G-sideの入り口を目指す。学校にも近いし何より場所が分かりやすいってことで、駅地下からの入り口を選んだ。水戸勢だけだったら地下の現地集合でもよかったんだけど、何しろG-sideに入ったらアバターになる。つまり容姿が変わってしまうのだ。フレンド登録しているから連絡はとれるとはいえ、お互いを見つけるのに多少の手間が増えてしまう。だったら地上で集合してからみんなで行こうという事になった。
「今G-sideで宿泊してんでしょ?泊ってるのって城下町?」
「そう。南のエリアにある”眠り猫亭”って所」
「ああ、冒険者ギルドに近いとこでしょ?あそこ本当に猫飼ってるよね。飲食スペースは誰でも利用できるし、猫カフェ扱いで入り浸る人結構多いよね」
「だからか。なんか宿の規模に対して妙に人が多いと思ってた・・・」
「気付けよ」
この数日ですっかり打ち解けて遠慮がなくなっている。まあ、人間関係の構築が登校週間の主目的だから大いに結構だと思うけど。それにしても茜はもうちょっとソフトに突っ込んであげて欲しい。
話をしているうちにいよいよ入場ゲートの前まで到着。いつ見てもテーマパークみたいだ。
「このディテールって、城下町のイメージに合わせてんの?いわきで使ってた入り口とは全然雰囲気違うけど」
G-sideを目指す人の列の向こう側を見遣り、原田が聞いてくる。視線の先には”ローゼンブルク城下町”の文字。その文字が刻まれたゲートの向こうは、漆喰の白い壁とレンガが組み合わされて中世のヨーロッパみたいなデザインになっている。いかにも”これから夢の世界へ!”みたいな感じだ。
「多分そう。どこの県もそうだけど、県庁所在地には中心になる街がおかれてるから気合入ってんじゃない?福島市行ってないの?」
「行ってない。いわきからひたすら南下してきたから。県庁所在地は初めてだよ」
「街の規模って、ある程度地上にあるリアルの街に合わせてるらしいね。茨城だとつくばの地下も割と大きな施設とか密集してるし」
「いわきもありそうじゃない?ていうか福島市より人口多いでしょ」
「まあ、確かに大きめの街ではあったな。あっちは海底都市みたいな雰囲気だったけど」
「へぇ~、素敵。行ってみたいなぁ」
「おお!本当に来るなら案内するよ!地元に残ってる仲間もいるし、俺たちもポータルですぐ移動できるからさ」
海底都市か。確かいわきは海が近いんだっけ。海沿いに水族館なんかもあったはず。
曽根とうがちゃんは気軽に案内してくれるって約束を取り付けてるけど、この人的繋がりって本当に桜明のいい所だと思う。他にも同じような形態の学校はあるけど、規模としては桜明が一番なのだ。
ゲートの先にあるエレベーターから更に地下へと移動すると、ドローンタクシーの発着場へと到着する。ここも中世ヨーロッパ的デザインに合わせて貴族の屋敷の庭みたいな雰囲気だ。更にドローンタクシーのデザインは馬車っぽい。馬いないけど。
適当な列に並び、順番にタクシーに乗り込んでいく。1台につき定員は6人なので、2台に分かれて乗車する。基本はパーティー毎。曽根と原田は別々に乗った。
タクシーに乗り込むと、アレンにグループcallの申請が届く。申請元はタクシーだ。
≪ようこそG-sideへ。どちらへお連れしましょう?≫
『南東側へ』
申請は全員に届いていて、代表して茜が行き先を指定した。地下でばらけると面倒なので、事前にどの地点に降りるかは決めてある。
≪承知しました。では前方のタクシーから順次出発して参ります。離陸までもうしばらくお待ちください。離陸までの間に、磁気ベルトの装着をお願いいたします≫
アナウンスに従い、安全装置の磁気ベルトを装着しながら離陸を待つ。アバターに変わる前の生身の状態でベルトを装着すると、戦闘機乗りのようなビジュアルになってしまうが気にしない。どうせすぐに関係なくなる。
俺たちより前にいたタクシーが順調に飛び立ち、すぐに順番が回ってくる。タクシーは発着場の開口部から外に飛び出し、景色が一変。さっきまでは屋敷の庭的空間だったが、今いるのは完全に空中だ。なにせ現在地は地下G-sideの天井付近。これから更に下へ下へと降りていく。
毎回思うけど、SF映画の宇宙船の発着場みたいだ。デザインが馬車過ぎて合わないけど。
「空からだと街の全体が見渡せて良いな。それにしても、この距離からでもわかる城って凄ぇよな。さすが城下町」
一緒に乗る曽根が窓から下を覗き込みながら言う。眼下にはこれから向かう”ローゼンブルク城下町”がしっかりと見えている。城を中心に円形に広がる街。街にはエリア毎に特色があり、城周辺の中心地が貴族街。その更に外側に各エリアが存在している。俺たちが今から向かう南側は最もプレイヤーが集まる地区だ。南エリアの中でも東側に冒険者プレイヤー向け施設。西側に生産・商業系プレイヤー向け施設が立ち並ぶ。
「なあ、あの城って行ったことあんの?」
「ない。今んとこ用がないからな。千歳の人たちは結構出入りしてるみたいだけど。あとは貴族街でお茶会とかしてるプレイヤーが行くんじゃね?」
「あー、シミュレーション系か。千歳の人たちは何で行くんだ?」
「あの城一応騎士団とかあんのよ。で、その騎士団がたまにやってる討伐とかへの参加依頼があるんだって。上級プレイヤー限定クエストってやつ」
「なるほど!」
ダンジョン攻略などで実績を上げて、評価が高くなると城に呼ばれるようになるらしい。商業系や生産系のプレイヤーも呼ばれる人がいるって聞いたことがある。まあ、そういう扱いの城ってゲームでは多いよな。
≪それではこれより本格的にG−sideに入りますので、この時点をもって皆様のアバターホログラムを起動させて頂きます≫
高度が少し下がり、タクシーからアナウンスが入る。地面に降り立つのはまだまだかかるが、既にG-sideにいる人達からアバター展開前の中の人が見えてしまったら萎えるので、高高度からアバターの姿に変身するのだ。
各人の目の前にホログラムのウィンドウが出現。そのウィンドウには見慣れた自分のアバターが映し出されている。そして、ウィンドウが砕け散るエフェクトと共にウィンドウの破片が俺に纏わりつく。地下デビューした日、初めてこの演出を見たときはびっくりしたけど、流石にもう慣れたものだ。
周囲を見回すと、さっきまでいた友人たちの姿は無くなり、代わりに奇抜な見た目の男女が4人。内3人は良く知ったパーティーメンバー。残る1人は緑の目に金髪の男。ヘアピン着用の髪型のせいか、ちょっとチャラそうにも見える。
「曽根?」
「いやなんでそっちが疑問形なの。俺一択でしょうが。ちなみにアカ名は”たくあん”ね」
言いつつ車内の面々を見渡すたくあん。1人1人目を留めて見ているのは、本人のコンタクトを通して見えているプレイヤー情報を確認しながら見ているせいだろう。
俺もたくあんに目を向ける。
『アレン、たくあんの情報見せて』
〈了解〉
アレンから了承の返事が返ってくると、たくあんの頭上にあるアイコンが変化し情報を映し出す。これは相手との関係性によって情報量に差が出る。個人の設定にもよるが、通りすがりの他人とかだと名前すら分からないこともある。しかしたくあんとは既にフレンド登録を済ませているので、それなりの情報が開示された。
名前:たくあん
プレイゲーム:アレウスファンタジア、クレイジー・バトル・フロンティア、ハク、スナイパー、ヘカトンケイル、モンスターフレンズ、unknown、あの日の師匠とグリモワール、
コメント:地下デビューしたてです!配信チャンネル”かけだし冒険者の成り上がり道中”運営中。気軽にフレンド申請してください!
この”プレイゲーム”の並びは、デフォルトならプレイ時間の長さで決まる。unknownが下から2番目だが、バーチャルGーsideでプレイしてきた分が加算されている為他のゲームが上位に来ているのだ。むしろあのグリが凄え低いな。
「なあ、アリスの身長ってどうなってんの?元の三ツ井より大分ちっちゃくなってるけど」
一通りの確認を終えたらしいたくあんが、アリスをガン見しながら疑問を口にする。それは俺たちも通った道だから、気持ちはよく分かる。
なにしろ、アリスの身長はリアルより20cm以上小さくなっているのだ。カラスは逆に大きくなっているが、こっちはホログラムによるかさ増しで説明がつく。しかし逆に小さくなるとはこれ如何に。本来ならアバターから飛び出ているはずの部分はどうなっているのか。
「これもホログラムだよ。光学迷彩的な?ハミ出た部分はちゃんと見えないように隠してくれるの」
ご丁寧に、アバターの見た目に合わせて声も高く設定している。声まで変えるプレイヤーは少ないが、課金すれば設定できるのだ。
「へー。目線は?今ちゃんとアバターのアリスと目が合ってるけど、実際の三ツ井とは目線違うだろ?」
「これも設定で、中の人目線かアバター目線かを変えられるんだよ。俺も身長いじってるけど、アバター目線にしないと自分は顔見てしゃべってんのに相手が目ぇ合わせてくれない感じになるから違和感あるんだよな。他にも身長いじってる奴知ってるけど、基本みんなアバターの目線に合わせて設定してるな」
「G-sideの中って、言ってみればバーチャル空間をリアルに持ってきたみたいなもんだから、全空間システムで把握されてるんだって。だからアバターに設定した身長から、”その身長の人の自然な目線の高さ”を割り出してスマートコンタクト経由で見せてくれてるってわけ」
「なるほどな~」
たくあんは感心しつつ納得している。だがしばらく前に初めてこのタクシーに乗った時の俺たちは、ちょっとした好奇心ゆえにコントのような展開に至ったのだ。
アバター起動のエフェクトに驚き、気が付いたら知らん奴らと一緒に狭い車内に閉じ込められている状況にビビり、それが見知った友人だと確認して落ち着いたまでは良かったものの、その内の1人が幼児化している事態に理解が追い付かずパニクる。
カラスはその問題”児”を見て困惑とも好奇心ともドン引きとも取れる表情を浮かべているし、イオリはアリスに”喉チョップ”をかました。いや正確に言うと、アバターのアリスの頭上に手をかざして確かめるべく手のひらを水平に動かしたところ、その位置が丁度中の人(幸)の喉の位置だったのだ。
更にアリスの目線の設定を変更する前だったために「なんかあたしの目から見ると、みんながおっぱいを凝視してるように見える」とのとんでもねーセクハラ冤罪を被せられる始末。俺たちが見てたのはアバターの顔面だ!
「ダイスケ、どーしたん?」
「ん?いや、なんでもない」
妙なことを思い出したせいか、遠い目になってしまっていたらしい。
そうこうしている内にドローンタクシーは無事に地下G-sideの地面に降り立つ。タクシーから降りるとアニメの中みたいな光景が広がっている。この景色の中にいると、離着陸している馬車型のドローンタクシーに違和感がなくなるな。もう完全に異世界に来た気分だ。
「おーい、お前ら~」
後ろから間延びした声に呼ばれて振り返ると、後続のタクシーに乗ってきていた斉藤たちのパーティーだ。1人見慣れない茶髪青目がいるけど、あれが原田だろう。
「お。そろったな。んじゃ、いつまでもこの辺で固まってると邪魔だから、とりあえずファシクラータ通りの方に行こう。あの辺飯屋が多いから」
カラスの提案に乗っかり、全員で移動を開始した。ここは次々と人が出入りしているので、用のないやつはとっとと立ち去るのが暗黙の了解なのである。
とりあえずたくあんに斉藤たちパーティーを、原田に俺たちパーティーをちゃんと認識してもらわないといけない。2人だけ覚えればいい俺たちと、8人覚えなきゃいけないたくあん達とでは負担が違う。落ち着いて話しながらの方がいい。
ちなみに移動しながら確認したところ、原田のアカ名は”焼きサバ”というらしい。たくあんが”サバ”と呼んでいるので、俺たちもそう呼ばせてもらうことにした。
次話へ
\ 作者のオススメ小説/
感想・意見