原作者の水無月(@MinazukiMito)です。
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上級攻略ギルドによるダンジョン攻略のお話です。
”千歳、翡翠洞攻略編”お楽しみください。
大阪遠征
「それで?結局教えてやらなかったのか。自己満足だな」
「腹立つ言い方だな。ゲームなんだから自分で攻略法を探すのも楽しみの1つだろ」
Gーsideで自分の生徒たちに遭遇した日から1週間。俺は仲間たちに遅れて大阪へやってきていた。正確に言えば、大阪直下の地下Gーsideの町の1つ、”カンゴーム”だ。
目的は新しく発見されたダンジョンの攻略。先行した仲間たちがダンジョンの調査を終えてくれたので、これからいよいよ攻略に乗り出すのだ。
そして調査の報告を受ける前の雑談で、ホシガキにこの間の生徒たちとの一件を話したらこのリアクションだ。反論したらあっさりと鼻で笑われた。
「何を楽しみにするかは本人次第だろう。その生徒らは気の毒だな。お前が主観的なキレイ事を抜かしたせいで選択肢が狭まった。効率的な攻略法を知った上で、自己研鑽と試行錯誤に邁進する道もあったろうに。ゲームなど序盤はやれることの範囲が狭くてつまらない。強くなってからが面白いところだ。仮にも”トップ層”などと呼ばれているお前にそれが分からない訳はないだろうに」
「ぐっ・・・」
この野郎は昔から長々と正論を突いてくる。しかも絶妙にグサグサと心に刺さる物言いだ。
これがケンシやギルマスのハオルシアならもう少し棘の無い言い方をするだろうが、問題はこいつと似た思考回路の頭を持ってる奴がいないことだ。いや居ても困るが。
要するに同じ内容をソフトに伝えてくれる人間がいない。
「だったら、お前なら即答えを教えたのか?」
「ふん。俺が他人を甘やかしてやるわけがないだろう」
何なんだこの野郎。結局教えねえのかよ。
「できない奴は自力で考えようが他人に教えられようが結局できない。それはお前も嫌という程知っているはずだ。Cチームの馬鹿共のおかげでな」
「まあ、一部な」
「濁すな。コータが煮え切らないせいで、いつまでもあのような愚物がのさばるのだ」
「・・・すげえ言い方だな」
コイツ現代人だよな?変なしゃべり方は今に始まった事じゃねえけど。
「話が逸れた。生徒に教えてやるかという話だが、俺なら要点だけ簡潔に伝える。お前のような毒にも薬にもならん中途半端な物言いはしない。言って解らんならそれ以上知らん。それだけだ」
「中途半端、な・・・。まあ、それは俺も同意だが。あいつらの戦い方、なんか誤解してるようにも見えたしな。しかし要点って。unknownは要点なんてつかめるほど単純じゃねえだろ」
「お前が勝手に複雑にしているだけだ。お前、俺と同程度には頭が回るくせになぜこの程度の整理もできない?」
「誰がお前と同程度だって?もしそうだったらもうちょい器用に生きてるっての」
思いっきり苦い顔をした俺を、今度は呆れを含んだ様子で鼻で笑う。しょっちゅう鼻を鳴らすのもこいつの癖だ。昔はいちいちイラっと来ていたが、流石に10年以上の付き合いともなると慣れるもんだな。
「理屈と感情を混同させるからそうなる。unknownで強くなる方法?『お前は何者だ?』。これに答えられれば十分だろう。ここは【第二の世界】だ。運営の言うようにな。他人が確立した方法論などクソの役にも立たん。”自分が唯一無二”だ。そんな現実世界では当たり前の事すら教えてもらわなければ思い至らない奴が、ここで強くなれる道理はない。まあリアルだとしても、理解している奴がどれだけいるか知らんがな」
お前は何者だ?・・・か。抽象的だが、サービス開始当初からプレイヤーをやっている身としては心当たりはいくつもある。良くも悪くも。
「ちょっと、そろそろ報告会始めたいんだけど?さっさと来なさいよ。アンタたちリーダーと参謀でしょうが」
「何でお前がいるんだ?」
「俺が呼んだ」
俺は驚いてホシガキを見た。ホシガキがこいつを呼んだ?
話しかけてきたのは紫髪の、古い時代のヤンキー、というか暴走族みたいな風貌の女。Bチームリーダーのセンナだ。今日は特攻服じゃないのか。
「呼んだ?あのダンジョン立地的にもそこまで難易度高くないだろうと思ってたんだが。センナに来てもらう程なのか?」
「ああ、隠しルートはなかなかえげつない。本当ならコータも呼びたかったところだが、面倒なおまけが付いてきそうだったのでな」
全チームリーダーを集める程か・・・。
「それって烏魔山レベルじゃねえのか」
「いや。戦力さえあれば突破は出来るだろう。烏魔山は規格外だ。サービス開始当初から堂々とそこにあるくせに、未だ解明すらまともに進んでいない魔窟と同列にするな」
地元にある超高難度エリア”烏魔山”。巷では天狗の森と呼ばれている場所だ。
「ごちゃごちゃ喋ってないで、さっさと報告会始めるよ。烏魔山と比べんのは良いけど、そんなの報告聞いてから考えりゃいいでしょうが」
センナにせっつかれ、今回の為に借りている大型テントへと移動する。さっきまで、今回のダンジョン攻略はAチームとホシガキだけでやるもんだと思ってたんだが。
仮にも”参謀”ホシガキがそれでは厳しいと判断したのだ。なら、遠慮なく本気で攻略させてもらうとしようか。
正直全力でやるような攻略じゃないと思ってたんだが、楽しめそうだな。
報告会
報告会に参加しているのはAチームから俺を含めて32名。Bチームからセンナを含めて21名。そこにギルマスのハオルシアと参謀のホシガキ。50人以上という大規模部隊だ。
「んでぇ、結局その隠しルートなんだけど~。入口になるのは地下6階なんだよね~。このダンジョン、普通のルートだと10階層なんでぇ、半分までは普通に進まなきゃなんないわけよぉ」
「6階までの通常ルートの方で確認されてるモンスターの中で、一番ランクの高いのがフロアボスだ。BBランクのバジリスクがいる。ダンジョンの立地を考えると、中階層でこのレベルのフロアボスがいるのはかなりハイレベルだろう。そこを踏まえて隠しルートの話に移るが、そこら辺の雑魚としてAAがうろついている」
最初に発言したのはBチーム斥侯班長のシュシュ。”楽しい事しか勝たん”を標榜するBチームらしく、真面目さには欠けるが常に楽しそうな奴。戦闘中もキャッキャしてるのをよく見る。
対して次の発言者はAチーム斥侯班長のトンビ。こっちは戦闘コンテンツの攻略を重視するAチーム所属だけあって、軍人か特殊警察みたいな仕事人的面構え。
この2人が並ぶと温度差が凄いが、お互いの仕事は認めあっているらしく関係は良好。両方実力者だからな。
「うげ。一気に3階級も上がんの?しかもランク低い方がボスって笑えないね」
「AAっつったら、場所によっては高難度ダンジョンボスクラスだ。しかも入ってすぐの話だろ?」
「ケンシさんせいかーい!なんとなんと、確認できただけでAAAまで見つかってまーす!」
「斥侯班が進めたのは隠しルート5階層までだ。問題のAAAってのはヴァンパイアロードとリッチとドラゴンゾンビのグループなんだが、4階層の通路で突然遭遇した。何度か出くわしているが毎回場所が違う。多分徘徊してるフロアマスターだと思われる」
「5階層のフロアボスは?」
「それがぁ、ボス部屋に辿り着けないんですよねぇ。そりゃあウチらもシーフの意地ってもんがありますしー、隠し通路とかギミックとか死ぬほど調べたんですけど全っ然」
「結果、おそらく4階層のフロアマスターが関係しているのではと結論付けた」
「なるほどな。流石に斥侯班だけでAAAの複数撃破は厳しかったか。条件が達成できないのであれば検証のしようもないな」
「お前一緒に行ったんじゃねーのかよ、ホシガキ」
「いやお前も先乗りしてただろケンシ・・・。むしろお前が参戦してねーのはなんでだよ・・・」
ホシガキにしろケンシにしろ、戦闘では千歳の中でも五指に入る実力者だ。そんなのが2人もいて戦力不足なんてあるか?
「ホシガキは『他人の領分を冒すのは趣味じゃない』とかほざいて途中不参加。ケンシはダンジョン内で迷子だ。隠密行動中の斥侯班を見失ったらしい。馬鹿だから」
「馬鹿は言い過ぎだろ!お前ら隠れるなら俺にくらい分かるようにしてくれてもいいじゃねえか!」
・・・ケンシが俺んとこに暇つぶしに来たのはこのタイミングか。5階層ボス部屋への侵入ルートを模索する段階で迷子なんてやらかしたから、面倒くさがられて待機にされたんだな。そのせいで結局突破できなくなるとは皮肉にも程がある。
「ふん。それではただの足枷だな。斥侯の居場所を把握したうえでいちいちそこを気にする味方がいてみろ、隠れる努力の全てが水の泡だ。よしんば自主的に迷子になったのなら、お前にしては良く気遣いが出来たものだと褒めてやるところだが。所詮頭に何も詰まっていないから迷宮に捨てられたんだろうよ」
「お前は他人に毒を吐く前に呼ばれた意味を考えろこのひねくれ者」
「俺が呼ばれた意味だと?斥侯班と苔の助が隠しルートへの侵入条件を突破できなかったからだろう。まあ、頭脳と戦闘能力の両方を要求されるとなれば仕方がないから協力したが、その先については話は別だろう。他に同じような状況にならないとも限らないから裏ルートまで付いては行ったが、どこまでも出しゃばるのは主義ではない。このケースのように戦力だけあればいいのなら、こいつの子守に注力すればよかった話だ」
「俺は子供じゃねえよ!」
「そこじゃねえ黙れ馬鹿」
トンビはケンシとは幼馴染だ。親同士で交流があるらしく、それこそ物心つく前からの付き合いらしい。
更に中学・高校時代は同じ部活に所属していた仲であり遠慮が全くない。ギルド内でも割と人望のあるケンシに対してこんな態度をとるのはトンビくらいのものだ。ホシガキはまあ、別枠として。
「はいはいそこまで。ホシガキと口喧嘩とか、最上級に時間と労力の無駄だから止めなさいよ。アンタらだって付き合い長いんだから知ってるでしょうが。ホシガキがフロアマスターに手ぇ出さなかったのは、本隊が合流してからの方が良いと思ったからでしょ。多分」
「俺もセンナと同意見だ。表面がこんなんだから腹立つのは分かるが落ち着け。ホシガキが意外に他人に気ぃ遣ってるのは知ってるだろ」
「ディキ、知っててもムカつくものはムカつくだろ。有能だから余計にウザい」
ホシガキは人と話せばひねくれた事ばかり言うが、その実仲間に対する情は厚い。
本人は「自分の利害の為」なんて言っているが、傍から見てれば言ってることとやってることに矛盾があるのがわかる。本当に利害だけの為ならしなくていい事までするからな。とはいえ、近しくならなければ気付かないだろうが。
俺たちはほとんどが大学や高校時代からの付き合いでな。気の合う同世代と集まるのは楽しいもんだ
方針決定
「話戻そうよ。それで、フロアマスターとは一回も交戦しなかった?」
発言者に注目が集まる。ギルドマスター、ハオルシアだ。
外野からは”お飾り”だの”分不相応”だの言われているが、俺たちが望んでマスターの座に就かせた人物だ。
「いや、何度かは交戦してる。が、流石に斥侯班の分隊だけじゃ歯が立たなかった」
「まー、うちらの任務は情報収集であって勝つことじゃないしぃ?ゾンビアタックで色々試したっすよ?不死者のグループ相手にゾンビアタック!これがゲームじゃなかったら頭パーンッ!てなるところっすね!」
シュシュが敬語を使う相手はハオルシアとセンナの2人だけだ。理由は高校時代の先輩後輩の間柄だから。他のメンバーに対しては年上だろうが格上だろうが全てタメ口で通す。ある意味で強い。
「お前の感想などどうでもいい。実験結果はどうだったんだ」
「通常不死者の弱点であるはずの光も聖も火も効果はいまいちだった。かといって他の属性でも特攻が入っている様子は無し。地道に攻撃して削り切るしかなさそうだ」
「うーわー・・・。だからアタシが呼ばれたわけ?単純に火力要員ってこと?」
「火力増やしたかったのはそうなんだけど、最大の理由は分隊の数を増やしたかったからなんだ。なにせあいつらは徘徊してるから。4階層は結構広いし、全員で固まって探すんじゃ時間がかかりすぎる。ディキ・ケンシ・ホシガキ・センナの部隊に分けて一気に捜索、接敵した部隊から戦闘開始。他の部隊は状況次第で待機または増援に動く」
答えたのは苔の助だ。こいつは戦闘は不得手だが頭が回る。
ホシガキは所属チームを定めずにギルド内でフラフラしているが、苔の助はAチーム所属だ。攻略を最重視するAチームにとって、情報の収集・分析・選別分野の重要人物でもある。
あと、性格的に非常にまともな人間であることもポイントがでかい。何しろこいつがいなかったら、いちいち毒を吐くホシガキに頼る羽目になるのだ。
「あと、ハルはディキかセンナかどっちかの部隊について行ってほしい。ケンシの所は火力は問題ないから良いとして、ホシガキは自力で状況判断してどうとでもするだろうから。どっちについて行くかは好きにしてくれて良いよ」
「なら、ディキの方行きなよ。アンタら夫婦じゃん。新婚なんだから楽しめば?」
「まあ新婚は置いといて、単純にハルが付いてきてくれるなら助かるな。一緒に来いよ」
「え!?えへへ、じゃあそっちに行くよ」
親友のセンナに妙な背中の押され方をしたせいか、なぜか照れるハル。ここでどっちでもいいなんて回答は地雷と心得ている俺。どうでもよさげな幹部数名。生暖かい目で見てくるギルドメンバー。
「じゃあ、それ以外のメンバーの細かい編成は部隊長になる4人に任せるよ」
「今回の攻略は、5階層ボス以降の情報が無い。その先がどれだけ長いかも現状不明だ。6階層以降への突入が出来たときは、斥侯班の一部が先行して状況を探る」
「死に戻り上等で突撃ぃ!まだ誰も知らない世界がうちらのモチベー!」
突撃前で昂っているのか、妙なテンションのシュシュの発言で報告会を締め、部隊編成へと移っていった。
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