こんにちは。原作者の水無月(@MinazukiMito)です。
二次創作大歓迎です。公開されるのを楽しみにしております。
こちらの小説は”フリー原作”となっております。
ニコニコ静画やpixivなどでの公開や、グッズ制作・販売なども可能です。詳しくはこちらの記事にお願いをまとめてありますので、ご確認下さい。
こちらガッツリ長編となります。書きあがり次第どんどん続きを投稿していきますので、応援いただけますと励みになります。
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同じページに載っているキャラクターが居るため、ページは3種類です。先に開いておきたい方が居ましたらこちらからどうぞ
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\読書のおとも/
Gーside
皆様ようこそ、Gーsideへ
当エリアは現実と非現実を兼ね備えた、第2の”世界”。
百聞は一見に如かず。第2の世界であるというこの言葉に嘘偽りがない事、是非ともご自身の体験を以ってお確かめください。
それから皆様へお願いがございます。ゆめゆめ”己”を見失われませぬように。
Gーsideは第2の世界。しかし皆様の人生は1つでございます。
皆様を通して2つの世界は繋がっております。
”理想”・”空想”・”夢想”。それらを実現しうる場であり、実現の手助けとなりうるでしょう。
新たなる人生の幕開けに、どうかどうか、幸多からん事を・・・・・・・
***
ここは”Gーside”。地理的な場所を説明するならば、日本国”地下”。「ファンタジーを現実のものに」というコンセプトのもと作り出された、頭おかしいと言っていい規模のゲーセンである。
Gーside内部はそれこそゲームに入り込んだようなファンタジックな世界が広がっており、生身の体で非現実的体験ができるというのが最大のウリだ。街や村といったセーフティエリアであれば実際に”中世欧風”とか”近未来風”といった、居るだけで心躍る空間でのんびりと食事だってできる。
ごちゃごちゃ言っているが、要するに”異世界転生とか面白そうだけど、現実には無理だから地下に異世界っぽいもの創りました”ってのがG-sideだ。
そして今俺たちが居るのはフィールド。セーフティエリアとは違い、戦闘中の激しい動きで衝突事故などが起こらないよう、基本的にほとんどの物はホログラムで出来ている。
建物なんかのオブジェクトはもちろんだが、敵キャラも全てホログラム製だ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
ズッシンズッシンとやかましい音を響かせながら追いかけてくるクソでかい機械兵から逃げ回りながら、必死でエアボードをコントロールする。スケボー的操作感なので気を抜くとこけそうだ。
間違いなく気のせいだが、奴が一歩進むたびに地面が揺れているような気さえする。
この野郎15メートルくらい身長あるんじゃねーか?流石に周りの高層ビル群ほどじゃないが、足元に居るだけでめちゃくちゃ怖い。しかもクソ兵が飛ばしてくるビームやら銃弾やらを避けるたびに、全身の毛が逆立つような恐怖を感じる。
「頑張れー。あ、アリスそこ範囲踏んでる!ちょい右寄って!」
「寄ってじゃないからッ!!タゲとってよ空の2人!!」
俺の横を大型の電動バイクで疾走しながら、見た目小学生のピンクツインテールが頭上めがけて叫ぶ。クソ、俺もバイクにすれば良かった。何が小回り優先だ。体重移動の連続で足がぷるぷるしてきた。
そして能天気に適当な応援を飛ばしてくる空の2人。片方はジェットシューズを履いた銀髪ポニーテールの女。もう一人はドローンバイクに乗った、黒に近い紺の髪のガタイの良い男。
「お前らマジで頼むからタゲとって!俺ら左右にしか避けらんねーの!俺もう体力的に限界だからッ!!死ぬって!!」
「だいじょぶだいじょぶ!これゲームだから、死んでもセーブポイント戻ったらやり直せっから!」
「蘇生アイテムもあるよー。丁度2個」
「殺す気満々か!?デスペナでステータスが死ぬってのぉ!!!」
「そーだよ!あたしらパーティーじゃん!一部の人に負担偏るの良くない絶対!」
ぎゃあぎゃあと言い合いながらひたすら逃げて逃げまくる。今プレイしているゲームはレベルの概念が無く、”工夫と根性があれば割となんでもできる”というかなり自由度の高いものだ。
一応ステータスは数値換算されてはいるが、ぶっちゃけ参考値である。特に、「速力」なんてステータスに関してはプレイヤーの間では”ネタ値”だの”運営の悪ふざけ”だの、散々な言われようだ。理由は後述する。
でだ、参考値とはいえ現在俺たち4人の中で最も「攻撃力」の数値が高いのが、ドローンバイクの男”カラス”である。そのカラスが不意打ちで食らわせた攻撃によって減った奴のHPバーはなんと2%。
ちなみにそこらの雑魚敵なら、一撃で撃破もしくは瀕死まで持っていける位の攻撃力はある。一応パーティー全員であれこれ攻撃してみたもののイマイチ効果は薄く、作戦変更を余儀なくされた。すなわち逃走。
カラスは大馬鹿にもあの機械兵発見時に止めるまもなく攻撃をかまし、現在の追いかけっこに発展したのである。せめて原因を作った張本人にはタゲ持つくらいはやって欲しい。
「って、ヤッベェ!!」
ふいに俺が走る進路上に赤いラインが出現する。言うまでもなく、後ろから追いかけてくるクソ兵の攻撃予測位置だ。
必死で体を傾け、やや強引に進路変更をする。が、
「あ”ッ!?」
「あーッ!!ダイスケぇーー!!」
既に足が限界一歩手前まで疲弊していたこともあり、急な進路変更の遠心力に耐えられるだけの踏ん張りはきかなかった。
さながらクラッシュしたバイク乗りの如く吹っ飛ぶ俺の体。視界には、これまたあらぬ方向へ吹っ飛んでいく俺のエアボード。
「ぎゃー----!!」
情けない悲鳴を上げつつ、吹っ飛ぶに任せるしかない俺。走っていたのは広い道だとはいえ、クソ兵の攻撃を避けるために端に寄り過ぎていたのが悪い方向に作用した。
迫るビルのガラス面。ガラス越しにどんどん近付く赤髪の男(俺)!!
ガッシャーン!と派手な音を響かせつつビルに突っ込んでしまった。そして消し飛ぶHP。しかし俺の体は減速しつつも相変わらず吹っ飛び続けている。
・・・ぶっちゃけここはゲーセンだから、利用者に怪我をさせないためにそれなりの対策はなされている。吹っ飛び続けるのはその安全対策ゆえなのだが、そろそろ降ろして欲しい。
俺の視界には”ー行動不能ー”の文字。そしてついにはビルを突き抜けて反対側へ。そこでようやく停止して地面に不時着する。
この話、勝手に漫画とかイラストにして儲けていいんだってさ。作者が言ってた。ツール要る?
遭遇
「よーお。お疲れさん」
一切の怪我もしなかったとはいえ、かけられた声はあまりにものんびりしていて衝撃体験直後の俺にとっては現実感がない。
声はすぐ近くから聞こえたが、まだ微妙にショックから立ち直っていない俺は”ギシギシ”とか音がしそうなくらい不自然な挙動で振り返った。
そこにいたのは成人男性2人組。
1人は短い茶髪、がっしりした肩から伸びる腕の筋肉から”鍛えてます”感が滲み出ている。
もう1人は大型バイクに跨ったまま瓶を片手にこっちを見下ろす金髪男。ちょっと長めの髪を編み込みにした、浅黒い肌のイケメンである。
「さ、笹てぃ!?」
「ディッキアだ。アカ名で呼べちゃんと」
「あ、すんません」
良く知る金髪男にびっくりして思わず”地上”、つまりリアルでの呼び名を叫んでしまった。
笹てぃとは、”笹倉ティーチャー”の略である。すなわちこのヤンチャしてそうなイケメンは、俺が通う高校の先生なのだ。
「先生飲酒運転ですか?」
「あほか。ただの炭酸水だ」
まあ、”兼業”とはいえ教師が生徒の前で酒瓶片手にバイク乗ってたら大問題だが。
「それより良いのか?お前のパーティー絶賛戦闘中だったろ」
先生と一緒にいるもう1人の茶髪兄さんが、遠ざかりつつあるクソ兵の足音の方向を指さしつつ俺に訪ねてきた。この人も知り合いだ。先生の所属するギルドのギルメンのケンシさんである。
「だって、俺さっきビル突っ込んで死んじゃったんっすもん。イオリが蘇生アイテム持ってるらしいけど戻ってきてくれる様子ないし。セーブポイントもこのエリアの外なんで、すぐ復帰は無理っすね」
俺の視界には”ーgame overー”の文字が。
そりゃあ、ホログラムで作られたオブジェクトとはいえ、普通に考えて人間がビルに突っ込んだら死んで当然である。いまだに耳に残るガラスを割った音。
クソ兵の足音なんかもそうだが、全てサウンドエフェクトだ。おかげでリアル過ぎてマジで一瞬死んだかと思った。
映像で楽しむ普通のゲームとは一線を画す、文字通り”肌で感じられるゲーム”である。
「あれ、ケンシさんVアバですか?」
頭上のアイコンでプレイヤーやNPCを見分けられるようになっているのだが、2人ともプレイヤーであるのに先生とケンシさんのアイコンが違っている。
これはつまりログイン方式が違うことを指す。Vアバとは、バーチャルアバターの略。Gーsideでは、生身の体にホログラムを投影することでリアルの自分とは違った姿で活動できる。すなわちアバターだ。
しかし必ずしも生身でなければ参加できない訳ではない。
「おう、本体は今大阪でな。他のギルメンのとこに行ってんだわ」
本体がこの場所に来られない場合、Vアバを使って100%ホログラムの体で参加するプレイヤーも居る。
ケンシさんのように遠地に居て物理的に来られない場合や、そもそも生身で参加したくないという人も居る。それから最も多い理由が・・・
「それにしても、お前ら地下デビューしてまだ1ヶ月ちょいだろ?それにしてはかなり動けてるな」
「いやぁ、ようやく筋肉痛の地獄から解放されつつあるんすけどね。今回みたいなハードなのが来るとしんどいっす」
そう、生身で参加するには年齢制限があるのだ。
そりゃそうだ。広大なGーside内で子供が迷子になったら大騒ぎである。故に年齢制限が解除される高校一年生になるまでは、生身でGーsideに来ることは出来ない。
ちなみに”地下Gーside”と”バーチャルGーside”という呼び名が存在し、今俺たちが居るのは地下Gーside。
そしてバーチャルGーsideの方はというと、地下Gーsideとそっくり同じ地形のバーチャル空間である。
バーチャルの方では完全VRの空間と、地下Gーsideへ100%ホログラムのアバターを出現させて参加させる方法の2通りを選ぶことができる。実際ケンシさんは今後者の方法でここにいるという事だ。
完全VRの方でも地下と同じように遊ぶことができるが、地下Gーsideのように混雑することがないのがメリットだ。
「ところでケンシさんがVアバってことは、今日は”unknown”じゃないんすね?」
「おう、”ヘカトンケイル”にログイン中だ」
普通のゲームとGーsideゲームでは明確に異なる点がある。それは、他ゲームプレイ中のプレイヤーと普通にすれ違うことだ。
考えてみれば遊んでいるフィールドが物理的に共通なんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだが、これが中々面白いポイントでもある。
例えばだが、RPGプレイ中の冒険者プレイヤーが農場ゲームのプレイヤーからアイテムを購入したり、逆に農家プレイヤーから冒険者プレイヤーへ探索や納品・討伐なんかを依頼することもできる。
それだけを聞くと、普通に存在する生産システムのあるMMORPGと大して変わらねえと思うところなのだが、”違う”のだ。その鍵となるのが、”unknown”というゲームである。
このゲーム、地下Gーsideにて生身での参加しか認められないのだ。
つまりどれだけ遊んでみたいと思ったところで高校生未満には参加不可能なゲーム。そしてタイトル以外は運営からの公式的なアナウンスは全く無しという不可思議なゲームでもある。
公式サイトに掲載されているのはゲームタイトルと、「望みのままに」という一文のみ。つまりやってみなければ何もわからないのだ。
だというのに、このゲームに対してのプレイヤーの期待値は非常に大きい。
何故ならこのゲームは、Gーside運営元の社長がわざわざ別で会社を立ち上げて制作したタイトルだからである。
そして現在でも、その”Re-arise”という会社で扱うのはunknownのみ。つまりはそれだけ力入ってるって事だろうし、そりゃあ期待もするってもんである。
「ヘカトンケイルならあのクソ兵攻撃できそうっすね。配信やるんすか?」
「お前それ自分のパーティー全滅するの確定したと思ってる奴の発言だぞ」
「いや普通に無理っすよ。”あのグリ”で鍛えた俺とアリスの魔法も大して効かなかったし、”ヘカケ”で鍛えたイオリが飛び回ってあちこち攻撃してみたけど弱点っぽいのも見当たらなかったし。終いには”アレウス”でステータス上げまくったカラスの全力物理攻撃でも6%しかHP削れねーし。単純に実力不足ですね。引き離せもしねえし逃げ切るのも絶望っす」
謎のゲーム”unknown”。その正体とは、”全てのGーsideゲームで培ったステータスや技を1つのゲームに集約できる”というもの。
さっき言った、元々あるMMORPGとの明確な違いとは、そもそも他にプレイしているゲームによって、unknownで出来ることが全く違ってくるというのが大きな要素だ。
実際に生産システムが実装されたタイトルもいくつか存在するが、ゲームによって生産に必要とされる要素が違うというのは良くある話だ。
例えば料理を作るとして、普通にキッチンに立って調理する方式のタイプと錬金術的に合成するタイプのゲームがある。
unknownでは方式の違う料理スキルは別物扱いになるため、両方を修めていればそれだけ”料理スキルの高いプレイヤー”と評価されるのである。
そして、こと戦闘となれば別ゲームでそれぞれ培ってきた戦闘スキルを全部使えるのだ。さっきの俺の発言内容はそれを意味している。
つまり、魔法使いの見習いとしてストーリーを進行する”あの日の師匠とグリモワール”。ジェットシューズや電動バイクなどを駆使して機械兵と戦うアクションゲーム”ヘカトンケイル”。王道RPGとしてシリーズ化されており、Gーsideゲームのタイトルとしても人気トップクラスの”アレウスファンタジア”。
1人のプレイヤーがいろいろなゲームを遊ぶなんて当たり前の事だが、そのゲームのプレイスキルやステータスを他に持ち込むことが出来るなんて今までは無かった。
「・・・その話聞く限りだと、お前ら個別に攻撃しただけなんじゃねえか?」
「え?」
「何のためにunknownやってんだよ。それじゃ単に別タイトルのプレイヤーが集まってきただけになってんじゃねえか」
「どういう意味っすか?」
確かに笹てぃ・・・、じゃなくてディキさんの言う通りだが。1人が2タイトル以上の技を使えって事だろうか。
「あー、ちょっと待てディキ。その辺自分で探るのもunknownの醍醐味だろ」
ケンシさんがちょっと困った感じでディキさんを嗜める。
実の所、unknownにおいてそのゲームに関する情報をプレイヤーが公開してしまうのはご法度なのだ。
いや、より正確に言うならば、”unknownのプレイヤー以外に情報を漏らしてはいけない”のである。
つまりここでディキさんがunknownプレイヤーである俺に対して情報提供しても、お互いにプレイヤーであることが分かっているので問題ないのだが、そこはネタバレ的配慮というやつである。
「まあ、そうか。だったらこれ以上は言わない方が良いか?聞きたいなら話すがどうする?」
「・・・いや、いいです。つまりは普通のゲームみたいに考えんなって事っすよね。それが分かっただけでも十分っす。また今度試してみます」
何しろ地下Gーsideとunknownにデビューしてからまだ1ヶ月ちょっとしか経っていないのだ。この時点で先輩から聞いてしまうのはもったいない。
「また今度か。なんなら今からアレ相手に試して来たら良いじゃねえか」
そう言うと、ディキさんはニヤリと笑って俺を指さした。
専門学校かぁ・・・。笹てぃみたいな先生いるかな
復帰
<ディッキアさんから”蘇生のペンダント”の使用申請を確認。受け入れる?>
装着しているイヤホンを通して、少年の声でシステムメッセージが読み上げられる。俺は受け入れを了承した。
「あざっす!流石トッププレイヤーは太っ腹っすね!」
どうせ勝てる見込みはないけど、他のパーティーメンバーは戦闘続行中だし。友達が楽しんでるのに俺だけ場外じゃつまらない。
「まあな。何なら俺だけでも協力しようか?せっかく生徒が頑張ってることだしな」
あ、そうか。ディキさんはログインしなおせば参加できるのか。
「いや、そんな事したら貢献度全部持ってかれちゃうじゃないっすか!俺らが全滅したら譲りますよ!」
無事蘇生アイテムの効果で全回復して立ち上がる。すると遠くから「ズズン」という音と「ぎゃああぁ」という悲鳴が聞こえてきた。
「蘇生ありがとうございました!玉砕しに行ってきます!!」
奢ってもらった蘇生アイテムを無駄にする事を堂々と宣言したら、2人まとめて豪快に笑われた。
「はははッ!!行ってこい。俺らも近くで見てるから、終わったら交代してやるよ」
「頑張れよ」
2人の応援を背に駆け出す。
さっき吹っ飛んだ勢いで突き抜けたビルはホログラムなので、やろうと思えば無視して通り抜けることもできるのだが、そうするとクリア時の評価が下がってしまう。
なのでビルは迂回してクソ兵の元に戻らなくてはならない。クリア絶望的だとかはこの際考えてはいけない。
目の前に階段をイメージする。とはいえせいぜい3段くらいしかない小さい階段だ。
イメージなので実際にそこにあるわけではないが、俺はその階段を駆け上がる。”あの日の師匠とグリモワール”は魔法使いのゲーム。このゲームにおいて魔法とは呪文を唱えるものではなく、イメージを具現化させるというものだ。
ステータス上MPという上限はあるものの、つまるところ想像力の勝負なのである。
駆け上がった3段目を踏み切って跳び、そのまま今度は目の前にウォータースライダーみたいなチューブをイメージする。
そしてその中に体ごと吸い込まれていって、あとはチューブのコースに従って勝手に進むイメージだ。例えは非常に悪いが、掃除機に吸い込まれたゴミみたいな?
俺のイメージ通りに体は空中を移動し、イメージ通りのコースを進む。
高層ビルを上に飛び越えるなんてMPの無駄は出来ないので、ぐるっと迂回してさっき追いかけっこをしていた通りに戻る。そして道の端っこに投げ出されたままのエアボードを発見した。
俺はエアボードに掌を伸ばし、ボードが俺の方に向かって飛んでくるイメージをする。よし、イメージ通りに回収できた。
ここはただの日本の地下空間であり、実際に魔法なんかが存在する異世界とかではない。しかし現状俺は空中にいて、ゲームシステムに従い魔法を行使している。生身の体で。
なんでこんなことが出来るのか。それは、Gーside内に設置されている安全装置をゲームに転用した”特殊磁場を利用した干渉システム”によるものだ。
地下Gーsideでのゲームは実際に自分の体を使ってプレイする以上、遊ぶ際の安全が確保されているのは絶対条件である。ではその安全をいかにして守っているのか。
実は俺たちプレイヤーは、ホログラムで作られた自分のアバターの下(つまり生身の体)に、軽量化された金属で作られたベルトを着用している。これは地下Gーsideに入るにあたってのプレイヤーの義務だ。
そしてGーside内は、地下空間という閉鎖的な環境を利用し、空間全体に人体への影響が少ない特殊磁場が展開されている。
この磁場が金属に作用し、安全ベルトを通じて落下や衝突が発生しそうな状況をAIが感知した場合には、干渉して危険を回避するように設計されているのだ。
実際に、さっき俺が吹っ飛んでホログラムのビルを突き抜けたのもこの安全システムが作動した影響である。システムは対象者(俺)が怪我をしないよう、減速してから地面に降ろしたのだ。
これは電動バイクなんかの乗り物にも有効で、地下Gーsideで使用できる乗り物は、例外こそあるが金属が使用されている物のみ使用していいことになっている。
万が一バイクが吹っ飛んだ先に人間が居たら怪我では済まない。なので、この場合は人間同様、バイクも進路調整・減速の上で停止するわけだ。
少し話が脱線したが、じゃあ俺が”魔法で飛んでいる”とはどういう理屈なのか。
これは安全システムのために展開されている磁場と、プレイヤーが装着しているベルトの為せる業である。
俺の”飛びたい”という意思をシステムが読み取り、磁場からベルトへの作用を本来の”浮かせたまま進路変更・減速”から”浮遊・移動・進路調整”へと変換したに過ぎない。
要するに、安全システム的にやっていることは大して変わらないのである。ただ人間の目から見れば用途が変わっているだけで。
<ダイスケ、カラスからCallだ。応答する?>
さっき先生から蘇生アイテム使用の申請があった時と同様、少年の声が俺に問いかける。
『する。繋いでくれ』
<了解>
少年、つまり俺のアシスタントAI”アレン”が要請に応じてカラスとの連絡を繋いでくれる。
『ダイスケー!!お前なんか復活してね?パーティーリストのHP回復してんじゃん!』
『おう。ディキさんとケンシさんがいて、蘇生アイテム奢ってもらった』
『マジか!!なら早く戻ってくんね?こっちもういっぱいいっぱいだから!!』
『戻りてーけどどこだよ?』
『とりあえずさっきの道ひたすら直進してくれ!近づけば俺のマップでお前の反応拾える!!』
『りょーかい』
この会話、俺は一言も声に出さずに成立している。
イヤホンに搭載されている電極を通じて俺の脳波を読み取り、それを音声として相手に届けているのだ。
この機能、爆音轟く戦闘中であっても関係なく声を届けられるのでプレイヤー的にもありがたい。
ついでに補足すると、俺の”魔法発動”もこの脳波読み取りによってシステムへの指示が行われている。コントローラーも兼ねていると言っていい。
俺は視線を進行方向斜め下に向ける。ぶっちゃけこのまま飛んで行った方が早いが、そんなことをしたら戦闘前にMP枯渇で何もできなくなってしまう。
地面に向かって下降し、着地寸前にエアボードを両足の下に放り込んでアクセルを踏み込む。もう回避なんて考える必要はないのでフルスピードで爆走上等だ。
『ダイスケ、そっから2つ目の信号ある交差点右折!そのまま直進!今広い交差点見つけて交戦してる!!』
『はいはい。今行くから死ぬなよー』
『もうアリスは一回死んだんだわ』
『結局タゲとってやらなかったのかよお前ら!!』
薄情者め。多分俺が脱落したせいで分散してた攻撃が一気に集中したんだろうな。で、イオリのアイテムで蘇生済みと。なかなか鬼畜じゃね?
よっしゃ、気合い入れてくか!絶対疲れるから甘い物頼んどこ・・・
反撃開始
カラスの指示通りに交差点を曲がると、前方にクソ兵の背中が見えた。その周りで動き回っているのはパーティーメンバーだろうが、この距離から見ると人間と鳩くらい体格が違う。どんだけデカいんだあいつ。
この距離からなら助走は十分とれる。一度エアボードを止めて意識を集中させた。
スピードの乗った攻撃というなら突進一択だろう。
突進と言えば近接攻撃。もし俺が”ヘカケ”や”アレウス”の近接戦闘プレイヤーだったらシンプルに武器を構えて突っ込むところだが、生憎俺はそういうタイプじゃない。
だがここはGーsideだ、元々プログラムに認知されている技しか使えないようなゲームとは違う。
自分の正面に幾本もの氷柱を出現させる。”あのグリ”はイメージ力がものを言うゲームだ。いくらステータスが高くても、ぼんやりとしたイメージしかできないプレイヤーは魔法そのものもぼんやりした出来に落ち着いてしまう。
だから集中して”殺傷能力の高い氷柱”というものを創り上げていく。より冷たく、より硬く、より鋭く。
目の前に浮かぶ氷柱の刃は、俺が念を込めて睨み付ける間にどんどん先端が尖り、その周囲には冷気故に靄が発生してくる。あの表面に触るだけでも冷たすぎて痛い思いをしそうだ。ホログラムだけど。
「・・・・・・・よし」
完成した無数の氷柱の槍を維持したまま、クソ兵の背中に向けて一気にエアボードで突進を開始する。氷柱は俺の前方5m程の位置を保ちながら俺と同じ速度で進んで行く。
「カラス!イオリッ!どけー--!!」
「はァ!?うわわわッ!!」
俺が攻撃態勢に入っていることを視界の隅で認識していたらしきイオリは焦らずに退避していったが、まったく予想外だったらしきカラスは若干ドローンバイクに振り回されながらワタワタと逃げた。
あの図体であの動きはちょっとダサいな。
ズガガガガッ
クソ兵の背中に氷槍をお見舞いし、そのまま股下を抜けて正面にまわる。振り向くと、さっき冷静に退避したイオリは攻撃準備も万端整えていたようで、高高度から急降下の上で回転かかと落としをキメた。
そして同時に地上では、アリスがバイクの上でアサルトライフルを乱射しつつ足元を駆け回っていた。しかし銃弾はクソ兵の装甲に弾かれてしまっているようでほとんど効果がない。
だがアリスは全く動じることなく、アサルトライフルを消してハンドガンに切り替える。
いや火力下げてどうすると思ったが、接近して放った一発が着弾と同時に爆発した。どうやら、シューティングゲーム”スナイパー”から持ってきた銃撃スキルに”あのグリ”の魔法を上乗せしたらしい。
続けて2発、3発と爆発させ、左脚に当たった4発目でわずかにだが体勢を崩させることに成功。
アリスが奮闘する間に態勢を立て直したカラスが、ドローンバイクの上で両手でハルバードを振りかぶる。あの構え方を見るに、槍部分で突き刺すのではなく、斧部分でバッサリいくつもりのようだ。
・・・待てコラ。お前それさっき不意打ちでかましたのと同じやつじゃねえだろな。それ2%しか削れなかったよな?記憶トんだんか?
そこでふと、さっきディキさんに言われたことを思い出す。”それじゃ別タイトルのプレイヤーが集まっただけ”。そう言われた。
さっきアリスが、別タイトルの技を融合させて攻撃を試みて体勢を崩させることに成功した。ならば、2人で技の融合を試しても良いのでは?
ぶっつけ本番だが、アレは今回だけでなく今までも何度か見ている技だ。なんとか出来るだろう。
普通味方の強化というとバフが一般的だ。
しかし、このunknownにおいてバフを掛けるのはなぜか半端ではない難易度なのである。
クラスメイトで魔法職メインにしていて、どのタイトルでもヒーラー・アタッカーに関わらず魔法職を選択する友達がいるが、彼女をして一度も成功したことがないというのだから相当だ。
なので、強化するのはカラスではなく武器の方。俺はカラスのハルバードに意識を集中させ、斧に風を纏わせるようにイメージした。
カラスは俺がやったことに気付いているのかいないのか、俺の魔法の発動直後にクソ兵の顔面目掛けて突撃。速度が乗ったままハルバードを振り抜き顔の横を駆け抜ける。
それと同時、俺が掛けていた風の魔法が弾けてかまいたちの如く斬撃を増幅させる。
カラスの斬撃の軌道に沿って威力を増幅させる風の刃が一筋。そこから枝分かれして軌道の外へと散り、その傷を広げるように拡散する風の刃が幾筋。
「よっしゃあッどうだ!!」
「まだっしょ。何トドメ刺した気になってんの」
手応えを感じて普通に喜んでいたカラスに冷や水をぶっかける、クールビューティーもといガサツなローテンションイオリ様。しかし言うだけでなく行動が伴うのが彼女の良いところだ。
カラスが攻撃した反対側から回転蹴りを一発。続けて反対の足で二発目。
回転蹴りの勢いで流れた体勢のままジェットシューズを噴かして少し距離を取り、そこから狙いを定めて再度肉薄。
接触寸前に両足をクソ兵に向け、その足が奴の体に接触すると同時にまたジェットを噴射。
速度が乗った蹴りとジェットの力で威力が増幅され、最初の回転蹴り二発を合わせたよりも更に高火力の一発を叩きこむ。
流石全タイトル中機動力トップクラスと言われるヘカケの戦闘プレイヤーだ。一連の流れに強化魔法を合わせる余裕もない程の早業だった。
最後の一発は流石の威力で、クソ兵がよろめいている。
「ダイスケ!ぼーっと見てないで、アタシらもやるよ!!」
「お、おう!!」
イオリのアクション映画さながらの連撃に見入っていたらアリスに怒られた。うん、そりゃそうだ。俺も戦闘中だもんな。
「いくよアルミロ!あいつ水没させてやる!」
アリスの前方に魔法陣が出現し、そこからマグロサイズのシャチに似た生き物が出現する。
こいつは”モンスターフレンズ”というゲームに登場する”プラティ”というモンスターだ。シャチっぽい見た目の通り、水を操る力を持った中級モンスターである。ちなみにアルミロというのはアリスがつけたニックネームだ。
「ダイスケ雷よろしく!」
俺にそれだけ言い捨てて突っ込んでいくアリス。その傍を空中を泳ぐようにして追うアルミロ。
アリスは走りながら魔法を展開し、大量の水をクソ兵めがけてブッ放す。
しかしアリスのやっていることは、本当に水を生み出してクソ兵の方に飛んでいくようにしているだけだ。それを補うのがアルミロである。アリスが呼び出した水を操りクソ兵の頭の上へ。結果豪快な滝行みたいになってんな。
準備万端のようなので満を持して俺も参戦する。アリスに頼まれた雷。あいつらが通電良くしてくれたので、遠慮なく最大火力でたたき落とす。
「おらぁ!ちょっとは効くだろ!!」
クソ兵は元が機械だけにどっかでショートでも起こしたのか、煙を上げて一瞬動きを止めた。それなりに効いてはいるようだ。
『うーわ。ここまで頑張ってもまだ60%以上HP残ってんな・・・。嫌んなるわー』
上空にいるカラスがぼやいているのが聞こえる。まあ、そもそも実力的にこいつの相手が厳しい事なんか分かってた。身も蓋もない言い方をすれば、逃げ切れないからヤケクソで戦ってるだけだし。
『これボーナスタイムでしょ。あいつ止まってる間にガンガン・・・』
イオリが言い終わるよりも先にクソ兵が動き出してしまった。そして・・・
『あれ?なんかモーション変じゃない?』
膝を曲げてスクワットのような体勢になっているが、それにしては腕が下に下がっている。
「ちょ!?これストンプじゃね!!?この巨体でやんのはエグくね!!?」
カラスが悲鳴のような叫びを上げた直後、クソ兵が腕を振り上げ垂直に跳んだ。
攻撃予備動作でしかないというのに、振り上げた腕の間合いに入ってしまっていたカラスのHPが一気に吹っ飛ぶ。気付いていても回避できないほど範囲が広すぎた。そして本番はここからであるわけで。
「「「ぎゃぁああああ!!」」」
上空から降ってくる巨大な金属の塊。いくらホログラムと言えど、こんな近距離で見たい光景じゃない。トラウマになるだろうが運営!!
ーgame overー
「あーあー・・・。分かってたよこうなることは・・・」
「にしてもこれは酷くない・・・」
≪パーティー全滅。機械巨兵との戦闘に敗北。これよりセーブポイント帰還までの間、行動制限を適応≫
げっそりしつつ4人で集まったところで、イヤホンを通じてシステムアナウンスが流れる。
「はいはい~、分かってまっす。んじゃあさくっと戻るかぁ~」
気が抜けたカラスの言葉と共に、移動開始しようとした直後。
<ダイスケ、ディッキアさんからCall>
「あ、忘れてた」
次話へ
Gーsideの本格戦闘を読んでみたい方はこちらがオススメ!
ディッキアさん達がギルドメンバーと共に高難度ダンジョンを攻略します。
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