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【外伝】千歳、翡翠洞攻略編:#6

水無月みと

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腐ったドラゴンの討伐戦①

さて、さっさと仕事に取り掛かるとしよう。

苔の助、お前は戦闘班の指揮に専念しろ。遠距離からの目が無ければこれは厳しい」

「アレを1人でやるのか!?」

「現状は、だ。まずは検証してからでないと動きようがない。それに相手がアレなら、お前よりも戦闘能力の高い俺の方が適任だ」

「・・・そうだな。ならとりあえず任せる。『全員聞け!ドラゴンゾンビがいる広間中央は避けて戦うぞ!一旦左右に散開!壁際を移動して敵グループの後方に回り込め!後方左右から挟撃しろ!ケンシ、悪いがお前は一番中央に近い場所で戦ってくれ!味方への狙いが分散しないように囮を頼む!』」

『『『『『了解!!』』』』』

苔の助の指示通りに全軍が動き出す。指揮官役となった苔の助自身も、ドローンバイクに搭乗してケンシのいる右翼側へ向かっていった。

当然だが、一番シビアに指示が必要なのは囮役だからな。最も過酷な戦闘に加えて、周囲の状況や味方の動きを全て自力で把握するのは限界がある。

相変わらずドラゴンゾンビの動きは鈍い。そして知能も高くないのか、単純に自分に一番近い敵に狙いを定めているようだ。

右翼側、最も内側で飛び回りながら移動と戦闘を継続するケンシを追っている。

「さて」

現時点で判明していることは3つ。

1つ。ドラゴンゾンビの姿は鏡越しでなければ確認できない。

2つ。こちらからの攻撃は無効だが、ドラゴンゾンビ側の攻撃は有効。

3つ。ドラゴンゾンビの攻撃対象は、自分に最も近いプレイヤーである。

そして、この時点で不自然なことが1つ。

恐らくだが、敵グループのモンスターには、ドラゴンゾンビの姿が鏡越しでなくても見えているらしいという事。

現在、味方は軍を2つに分け、左右の壁際を移動している。

大半の敵モンスターは移動中のプレイヤーに視線を向けているが、その中の一部が時折広間中央へと視線を移すのだ。

その行動をとるのは、高い知能を持つワイズマン・コープス。スケルトンと違い、目玉のついたゾンビであるこいつらの視線は読みやすい。

そのワイズマン・コープスだが、時折広間中央に目を向けては、ドラゴンゾンビの動きに合わせてこちらの行動を妨害してくるのだ。

ドラゴンゾンビの攻撃を躱そうとすれば、躱した先に魔法を放つ。ドラゴンゾンビが攻撃モーションに入ればバインドで動きを止めに来る。

明らかにドラゴンゾンビの動きに合わせているが、その視線が鏡の方へと向かっている様子はない。そもそもだが、やっていることはそれなりにシビアなタイミングを要求される。そこに居るプレイヤーと、鏡越しのドラゴンゾンビをそれぞれ別に確認しながら行えるような事ではない。

広い括りで言えば”アンデット”という同族だから成し得るのかもしれない。だが、これはゲームだ。メタ的な事を言えば、必ずプレイヤーが攻略可能なように設定されている。アンデットであることが攻略条件なんてことは無い。

ならば、別の共通点を考えるべきだ。

「ふん。どいつもこいつも”ホログラム”だ。周りに居るプレイヤー連中とは違い、実体がない」

今いる場所は地下Gーside。プレイヤーは生身の体を使ってゲームに参加する。しかし敵モンスターはと言えば違う。その体はホログラムで構成され、この場に実体は存在しない。

「さて、そこでだが。俺だけはお前たちと同条件だな」

この軍を構成する味方は皆unknownプレイヤーとしてログインしている。unknownへのログイン条件はリアルの体で直接地下Gーsideへ来ること。

しかし、体を茨城に置いてきた俺は”バーチャルアバター”でログインしている。

「まあ、これだけでは完璧ではないだろうがな。とりあえずは検証せねば話にならん。【召喚ーソードーショット】」

俺の足元に出現した魔法陣から1本の剣が出現する。そして、【ショット】のコマンドでドラゴンゾンビへと一直線に飛んでいく。

その頭に向けて飛翔した剣は、他のプレイヤー達が攻撃したときと同様にあっけなくすり抜けた。

解明

「やはりな」

知らず口角が上がる。予想通りこれだけでは不十分か。そう簡単に攻略させてはくれないらしい。

考え得るもう一つの要素。それは、”Gーsideには2種類ある”という事。即ち地下GーsideとバーチャルGーsideだ。

地下Gーsideとは言うまでもなく、現実の地下空間に建設された”この場所”を指す。対してバーチャルGーsideとは、バーチャルアバターでのみログインできる完全VRのGーsideだ

バーチャルGーsideの作りは地下Gーsideと全く同じ。だからこそリアルだろうがVアバだろうが、同じフィールドで同時に遊ぶことが出来る。

しかし実際には、Vアバで参加するプレイヤーは3つのログイン先を選択することが可能なのだ。

1つ。ホログラムを使用し、地下Gーsideに実体のない状態で参加する。現在の俺の状態はこれだ。

2つ。地下とは干渉せず、完全なバーチャル空間へログインする。バーチャル故にフィールドに人がごった返すことは無い。人口密度に辟易へきえきする必要が無いのがメリット。

そして3つ目。地下Gーsideの空間に、バーチャルGーsideの要素を融合してログインする事。これを”ハザマ”と呼ぶ。

1つ目と2つ目の選択肢は、単純に地下のみかバーチャルのみかという分かり易い2択。ほとんどのプレイヤーが、基本的にこのどちらかを選択してログインする。何故なら、3つ目の”ハザマ”は情報量が多すぎて疲れるのだ。

つまりは地下GーsideとバーチャルGーsideの両方の情報を同時に受け取る羽目になる。地下にしかいないプレイヤーと、バーチャルにいしかいないプレイヤーが同時にそこに居るように見えるのだ。ただでさえ人の多い街中ではたまったものではない。

故に、プレイヤーはこのハザマを知っていても実際に利用することはほとんど無い。

しかし極稀に、ハザマでしか見つけられないアイテムがあったりもする。まあ、そもそもハザマにログインする者が少ないから知られていないが。

『つまりは、あのモンスター達が実際に居るのは”ハザマ”だ。そして、俺たちの目に見えないドラゴンゾンビが居るのは”バーチャルGーside”だな』

『ッ!?ちょっと待て、今Vアバで来てんのお前だけだぞ!?1人であいつと戦うって事か!?』

Talkで説明してやると、苔の助が動揺した声で応答してきた。Vアバが俺だけなのは言われなくても知っている。

『だからなんだ。俺が倒せば済む話だろう。俺は一旦この場を離脱するから雑魚は掃除しておけ』

『おい待て!行くのは良いけど、どうにかしてあいつをこっちに引き摺り出して・・・』

『ロクシィ、ログイン方法の変更だ。バーチャルGーsideに切り替えろ』

『おいッ!?聞いて・・・』

<了解。地下Gーsideのホログラムを解除。バーチャルGーsideへの接続・・・、完了>

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